The Ecology of the Gelatinous Cube
ゼラチンキューブの生態
見えず、考えず、止まらず
by Ed Greenwood
ハプトゥースは長年に渡り、アンダーマウンテンやウォーターディープの迷路のごとくに入り組んだ地下道の探索を続けてきた冒険者である。彼はたくさんのそして奇妙な話をあるときはザ・サイン・オブ・ザ・スタッフで酸味の効いたブリントマッシュワインを振る舞いながら、そして立冬の月の祭りのときには魔導士評議会の面々を前にして語っていた。
さて、前回の祭りのときのことであった、評議会のメンバーの一人であるファンタスという者がハプトゥースに対し、もっと奇妙な体験や劇的な事件の話で我々を楽しませるよう鋭く挑戦してきたのである。と言うより彼は、この高名な団体がハプトゥースのような常識をというものを知らず、非常識で異常な知識ばかり貯め込んでいる冒険者との会見に費やすのは無駄だということを言いたかったのだ(ファンタスはそれは雄弁に語っていた)。ハプトゥースにとって彼の言葉は鋭利なダガーのように突き刺さったが、それとても彼にとっては過去に受けた幾千もの攻撃のうちの一つに過ぎなかったのだ。
ハプトゥースはライバルの言葉に取り乱すこともなく、翌年の祭りのときには非常に珍しい生物アスコイド・・・一般に知られるところのゼラチンキューブについての調査結果を報告に来たのだった。
アスコイドについての論議は調教師会館の回廊やアムン帝国動物園の事務所や生け捕りにしたキューブのための監視人たちの間でおよそ12の冬という長期に渡って熱心に続けられていた。疑問は次から次へと湧いてきた、「キューブのインテリジェンスはどれくらいなのか?」「彼らの不定形の姿はどうなっているのだろうか?」「彼らの消化力のある流動体の成分は何なのだろうか、そしてそれは武器として応用可能なのか、錬金術に使えるのか(それとも医学や動物の調教に応用できるのか)?」「アスコイドを手なづけるにはどうすればよいのか?実際にアスコイドを手なづける?」これらの疑問に対するすべての答えをハプトゥースは用意して魔導士評議会に臨んだのであった。
「今も」彼は言った、「光なき闇の道は我らの真下にあり、かの偉大なる生き物は音もなく滑るがごとくそこを彷徨っている。実際彼らには悪意はなく、自らのことを思うこともないが出会ったものをことごとく脅かすのもまた事実だ。子供でも知っていることだろうが、このゼラチンのようなモンスターはほとんど透明に近く、金属や石は消化できない、しかし、出会ったすべての種類の動植物は麻痺させられ食料となる、彼らに飲み込まれると犠牲者は腐蝕性の消化液によって消化され、養分として吸収されるのである。」
「知ってのとおり、アスコイドには思考力はない、しかしそれゆえに彼らの刺激に対する反応はどんな場合でも自動的で、しかも必ず同じなのだ。冷たい壁や物体に出会うと彼らは前進をやめ、元の道またはその他の道を見つけるために行く手を厳密に調べるのだ。アスコイドはまた、振動や熱に注意を引かれる、しかし聴力は無いようだ。物体の周囲や上部を流れるごとくに覆っているのを見ると彼らは形の定まらぬ流動体のように見えるが、周囲の状況が許せば彼らの形状は必ず長方形もしくは菱形に戻るのだ。」
「アスコイドは既に述べたように刺激を用いる場合を除けば、どんな生物とも意志を通じあうこともなく、コントロールすることもできない。さて、これは私がこの目で見たことなのだが、2体のアスコイドが出会うとそれらは合体し、より巨大でしかも安定的に見える1個体になるのである。この合体モンスターは合体前のそれぞれの個体の2倍の耐久力を持つが、結局は再び2体の普通のアスコイドに分離する、それぞれの個体は元々の個体とまったく同じであり、彼らはそれぞれ別の方向に去っていく。」
「さらに私は真の未知を探索したことによって知ったことを話そう。アスコイドは哀れにもセックスというものがない!」
この言葉に評議会員の間からつぶやきと忍び笑いが起こった。「と言うより、彼らは十分に成長した個体が2つの小さな個体に分裂することにより生殖するのである。これらの個体はさらに成長し、短期間で成熟する。」
「皆さんもご存じのように、アスコイドは犠牲者をゴム状の分泌液で麻痺させる、この分泌液は犠牲者の皮膚を経て血液中に取り込まれる。さて、この麻痺を即座に中和できる飲み薬がここにある。」ハプトゥースは金属性の小瓶を捧げ持ち、それからその瓶を彼の前の演台の上に置いてある別の小瓶のそばに戻した。「この解毒剤は私が調合したものだ。これは高価なものだが、あなたがたにとって必要となるものだろう。」
ハプトゥースはいくつかの事柄について熟考しているように言葉を切った。「アスコイドの消化液はその体内で造られ、可動性で伸縮自在の体腔または液胞に貯えられている。犠牲者がキューブに呑み込まれる一つかそれ以上の浮遊する液胞が犠牲者へ触れるために移動してくる。これらの消化液はいかなる種類の金属にも何ら影響をあたえない、そして我々全員が既に聞き知っているように金属製品はこの生物の体内にしばらくの間残される、その後それらは排出される、しかしこの消化液は肉と繊維には激しく作用する。」
そう言いながらハプトゥースは腰帯を外し、ローブを開いた。途端に人々は驚きの声を上げた。ハプトゥースの脇腹には象牙色のあばら骨が格子のごとくに露出していたのである。ぽっかりと開いた傷口の周囲の皮膚はまるで半分溶けたロウのように捻じれ、爛れていた。
「最近のことだが、私は行き止まりの道で罠にはまり、キューブ内部を通り抜けることで血路を開いた、その結果というわけさ。」彼はさらりと言ってのけた。彼はローブを開いたまま、ホールにいるすべての者が彼の傷を見ることができるようにゆっくりと歩き回った。そして腕を下ろすと彼は演台の方へ戻り、2本の小瓶を取り上げ、解毒剤の方をポケットにしまった。そして彼はもう一方の瓶の蓋を開け、聴衆のなかにいるファンタスに向かってゆっくりと歩き出した。「私はこの仕事に高価な代償を払ったが、すばらしい報酬も与えてくれた。私は消化液のサンプルを手に入れることが出来たのだ。」彼は声高らかに言い、肝を潰したこの評議会員にその瓶の中身をふりかけたのである。「そして今、優秀なアルケミストであるファンタスは非常識で異常な知識を身を持って貯め込むことができたわけだ。」
彼は最後に親しげに、にやっと笑い、テレポートで去っていった。あとにはファンタスの絶叫がホールに響きわたるばかりであった。
記
1.ゼラチンキューブは直径1'ぐらいの小さな隙間を通り抜けられる。彼らは120'以内の生きた動物の発する振動と熱を感じ取り、これらの獲物を積極的に追跡する。
2.自我というものが全くないため、ゼラチンキューブには意志を強制したり、精神に影響をあたえる類の魔法すべて・・・特にエンチャントメント/チャーム系の呪文や読心能力などに耐性を持つ。つまり“チャームモンスター”はこの生物には全く効果がない。
3.2体のキューブが出会い、合体することによってできる「ダブルキューブ」の攻撃は8HDモンスターとして扱い、そのhpも合体した2体のキューブの合計に等しい。この合体生物は10'×10'×20' のサイズを持つ、最も長い辺はこの生物の進行方向を示し、まるでどろどろした形状(直方体だが)のウォームのようである。その他の点においては通常のキューブと同様である。キューブの再分離は第3のキューブと接触すれば直ちに行なわれ、そうでなくても2−8日が経過すれば分離する。通常サイズのキューブは6年周期で分裂が起きる。分裂した結果生じたキューブはそれぞれ3HDであり、「親」の半分のhpを持ち、サイズは8'×8'×8'以下にすぎない。これらの「リトルキューブ」は3カ月で成体へと成長する。学術的な言い方をすればゼラチンキューブはイモータルの生物である、その理由はキューブは冒険者に殺されたり、餓死や事故死の場合を除けば死ぬことがないからである。
4.キューブは水中でも容易に活動できるが、敵を麻痺させる接触毒は大幅に希釈されてしまう。この環境条件により、毒に対するSTには+6の修正が加えられる。
5.キューブによる麻痺にたいしてハプトゥースの解毒剤は有効であり、薬を飲み込んでから(自動的な生体反射作用は麻痺によって妨げられることはない)1−4ラウンドで麻痺を解く。この薬はグールやキャリオンクローラーのような別の種類の麻痺については効果がない。また、この解毒剤は魔法的なものではない。
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The Ecology of the Harpy
ハーピーの生態
Part 1.
Songs of beauty.... 美しき歌声・・・
by Barbara E.Curtis
「そう・・君は私に何かを求めるために来たのだね。」銀髪の賢者はくすくす笑いながら香料いりの温めたワインを彼の客のためにカップに注いだ。「私のところに来る客などめったにいない、察するところこれはよほど重大なことに違いあるまい。」
それは疑うべくもなかった、コリンはこの賢者の隠遁所へたどり着くまでの不毛の荒野の長い横断行のことを思い返していた。それはレンジャーにとっても大変つらいものだったからである。
「ノースランドから来た人々が言うところによると、あなたは動物とその生態について研究をしているそうですね。私はあなたのアドバイスが是非必要なのです。実は私の村へ続く街道に奇妙な生物が巣をつくり、3ヶ月ほど前から罪なき旅人たちを襲っているのです。」
「君はその生物がなんと呼ばれているのかは知っているのかね。」ドドリアンドはコリンにワインの入ったカップを渡し、彼の向かい側にある彫刻された椅子に腰掛けながら、やや事務的な口調で尋ねた。
「奴らはハーピーと呼ばれていると誰かが言っていたと思います。」レンジャーは言った。「私自身はまだこの目で見たことはないのですが、奴らと出会い、生きて戻れたわずかな人々の語るところによると、ハーピーの頭部と上半身は醜い女性、そして下半身と翼はハゲタカのような姿だということです。」
「それはまさしくハーピーに間違いない、我が友よ。」ドドリアンドは言った。「3カ月と言ったね?だとすると問題は君が考えている以上に深刻かもしれん、・・・奴らはたぶんそこを自分たちの種族の狩場にするつもりだ。」
「狩場?」
「ノースランドにハーピーが生息していたという話は今まで聞いたことがない、しかし以前の狩場で獲物を獲り尽くしてしまったために奴らが北へ移動したということも充分考えられる。」ドドリアンドは考え深げに指を絡み合わせて言った。「もし奴らの一族の全員が移住してくることになったら、厄介なことになるのは明らかだ。奴らの一族は50~200匹のメンバーで成り立っている。奴らは賢くはないが、一族の安全を確保するには充分なほどの抜目のなさは持っているからね。」
「大した励ましにはなりませんね。」コリンはカップを見つめながら不満を洩らした。「ハーピーを追い払う場合あなたならどういう方法をとるんですか?」
「奴らを追い払うのは・・・」ドドリアンドは答えた。「・・・簡単なことではない、しかし奴らを皆殺しにしようとすることに較べれば、はるかにたやすいことだ。この場合、君たちには2つの選択肢がある、一つは君たちの村を安全な場所へ移すこと、もう一つはハーピーどもを退散させるに充分な力を見せつけることだ。奴らが勇敢だなんて話は聞いたこともないからね。」
「しかし、思うに私たちはごく小さな規模の種族についての話をしているのでしょう。私は12匹を超える数で構成されたグループの話は今まで聞いたことがありませんよ。」
「確かにまれな種族ではあるが。」ドドリアンドは言った。「しかし未知というわけでもない。ハーピーは通常“スクリームス”という小さな一団で生活していて、12匹を超えるようなグループで狩りをすることはほとんどありえない。とはいえ、極度の窮乏状態に置かれた場合には、ハーピーたちのそれぞれの小集団は団結することがあるということも知られている。実際のところ君が私が研究に費やしたのと同じ位の長期間ハーピーについて研究したのでなければ、奴らの種族のすべてについて知ることはできないだろうが。さて、奴らの狩場は通常5〜10平方マイルの広がりをもっている。そのため一度に12匹を超える数を見ることはないわけだ。奴らのねぐらはすべてそうというわけではないが、グループ共有のものだ。」
「すると村も奴らの狩場の一部になっていると言うのですか?」コリンは尋ねた。
「必ずしもそうとは限らない。君たちの地方で牧場の動物が消えてしまったという農民は誰かいるかね?」
「村外れの農夫のジャーラスは先週に羊が10頭ぐらいいなくなったと言っていました。」 ドドリアンドはうなずいた。「思った通りだ。牧場の動物にはとくに注意することだ。ハーピーどもは飽くことを知らない程の食欲をもち、食えるものは何でも食おうとする。君たちの村への道はおそらく毎日多くの旅人が通っているのだろう、それはすなわち奴らに安定した食料供給源を提供しているのと同じなのだ。男に女、子供、荷役用の動物・・・安全もなにもあったものではない。」ドドリアンドは腕を前方に拡げて溜め息をつき、話を続けた。「ハーピーは完全な肉食性だ。おお!だが私は聞いたことがある、飢饉のときにはハーピーも植物質のものを食うことを、もっともそれは本当にどうしようもない状態に陥ったときだけだがね。奴らは生肉、とくに人間やヒューマノイド、デミヒューマンの生肉を好む。エルフの肉はとくにすばらしいご馳走になる、その理由については後で説明しよう。しかしながらハーピーは美食家とはとても言いがたい、奴らは腐肉でもなんでも食うのだから。」
「もしあなたの言うように、ハーピーが貪欲なほどの食欲を持ち、食うためにはどんな者でも攻撃するのなら、なぜ奴らは大きな集団を襲おうとしないのですか?」コリンは尋ねた。「私たちはキャラバンを組んでレルマーまで、その道を辿っていますが、今まで一度もハーピーに襲われたという話は聞いていませんが。」
「先程話したようにハーピーは基本的にはきわめて臆病な性質なので、奴らは勝てると確信できる相手としか戦わないのだろう。」
「そういえば、普通は男女同数のはずですが。」コリンは言った。「男のハーピーの話なんてただの一度も聞いたことがないのです。ハーピーは不死で繁殖の必要もないのでしょうか?」
「いや、実は男のハーピーは生物学的な繁殖機能を除けば女のハーピーと外見上区別できないのだ。」ドドリアンドは空になったコリンのカップを再び満たしながら説明した。「ハーピーはすべて乳房を持った上半身をしているが、これは単なる見せかけなのだ。ハーピーは子供に授乳することはない(つまりほ乳類ではない)。そのかわり子供は鳥の雛にするのと同じような方法で餌を与えられる。種族内における男女の役割は実際のところ全く同じだ。共に狩りをし、共に雛の世話をする。当然ハーピーは不死ではない、おそらく最大でも25年から30年といった寿命だろう。」
「奴ら一族の繁殖力はどれくらいなのでしょうか?」
「健康な女ハーピーは2年で成熟し、一生の間に20個ほどの卵を産む、しかし成熟するまで無事に生きられるのは平均してわずか3個ほどだ。多くの卵はふ化すらしない。もしも生まれたハーピーの雛が明らかに欠陥を持っていたなら、両親はふ化後まもなく殺してしまう。もし同じ巣に同時に2羽以上の雛がいるなら、例外なく強いほうの雛が弱いほうの雛を殺してしまう。強いものしか生き残れないところなど、ハーピーは自然の法則をそのまま具現化したような存在にも思える。これは当然逆の場合も当てはまる。年老いて狩りをする力が衰えたり、障害や病気などの理由で自分の面倒を見ることができなくなったハーピーは種族のお荷物とされ、他の仲間たちによって殺されてしまう。」ドドリアンドは再びワインで満たされたカップをコリンへと手渡した。「自然の状態に任せておけば、ハーピーの一族が重大な意味を持つほど強大になることはあるまい。」彼はそう言い足して、再び椅子に腰掛けた。
「ところで、私は奴らが何者であり、なぜ攻撃を加えてくるのかについて興味深い知識を得ることが出来ましたが。」コリンはばらばらになった暗色の髪の毛の断片を傍らに押し出しつつ言った。「本当の質問はこれからなのです。奴らの攻撃法にはどんな特徴があるのですか?」
「もし奴らが牙と爪と機転だけしか頼りにできないのだったら、奴らはこれほど長くは生きられなかっただろう。だが、ハーピーが創造されたとき奴らは悪の造物主から独特の恐るべき攻撃能力を与えられたのだ。ハーピーの歌は世界中のすべての鳥への侮辱であろう、その生物の奏でる美しい歌声は聞き手の命を危機に陥れるとともに奴らの手先をつくりだす。この“チャーム”から逃れられる者はそう多くはない。一度ハーピーの歌の虜になってしまうと、犠牲者は自分を“チャーム”したハーピーを捜し求め、ハーピーが実は醜い存在であることに気がつくときが来るまでその許に留まる。犠牲者は何が起きたのかを実感していないため、ハーピーのために戦うことはないだろうが、彼の仲間たちがハーピーを傷つけないように説得を試みることはできるだろう。」
「“チャーム”を解くことはできるんですか?」
「むろんできる。しかし解く方法は私の知る限りでは3つしかない。」ドドリアンドは彼に言った。「第一の方法として、もし犠牲者の仲間で魔力の影響を受けていない者がいるのならば、彼は犠牲者を呼び出すことでハーピーの真意を確かめさせるように試みることができる。しかしこの方法が成功すると言う保証はないが。第二の方法は、マジックユーザーかクレリックの呪文によって犠牲者にかけられた“チャーム”を解くことだ。そして最後の方法はハーピーを殺すことだ。」
「歌の効果がなかったり、相手が歌による“チャーム”から解かれた場合、ハーピーはもう一つの方法で犠牲者を“チャーム”することができる。歌によるものよりはるかに強力なこの“チャーム”は犠牲者にハーピーのことを守るべき価値のある最愛の友人と思い込ませてしまう。この強力な“チャーム”は魔法的な接触によって犠牲者に送り込まれる。」
「その“チャーム”も歌によるものと同じ方法で解くことができますか?」
「残念ながら、このタイプの“チャーム”は歌によるものより強力に犠牲者に働くがゆえに原因となったハーピーを殺す以外に手はない。」ドドリアンドは火かき棒を取り上げると真赤に焼けたおき火をかきまぜ始めた。「この場合、犠牲者はハーピーの身を守ろうとするため、ハーピーを殺そうとする試みを妨害することだろう、これは重大な問題になる可能性がある。もし君が奴らを打ち負かすための仲間を募るならば、エルフの血を引く者が有利だろう、彼らはハーピーの能力に対して生まれつきの抵抗力を持っているからね。これはなぜハーピーにとってエルフがめったにないご馳走なのかという質問に対する答えでもある。エルフは“チャーム”にかかりにくいがゆえに滅多にないご馳走なのだ。」
「もし既に歌による“チャーム”の影響下にある者がハーピーに接触されたら、魔力は犠牲者により強力に働くのでしょうか?」
「いや、この魔力は累積して働くことはない。ハーピーが“チャーム”を強化する唯一の方法は歌による“チャーム”を解いてから犠牲者に接触することだ。ハーピーは“チャーム”をすぐに解くことができる、・・・それはいつも犠牲者を肉体的に攻撃するという方法がとられる。しかしこの行動は犠牲者を救出しそうな者がまわりに誰もいなくなり、犠牲者が“チャーム”から解き放たれたとしても逃げられる心配がなくなるまで待ってから行なうようだ。奴はまず獲物から武器を取り上げ、犠牲者が無防備の状態になったところで攻撃をかけ、早々と利益を手にするのだ。」
「一度“チャーム”から解き放たれた者は、あとで再び同じ“チャーム”にかかることがなくなるのでしょうか?」
「必ずしもそうではない。」ドドリアンドは火かき棒をもとの場所へ戻し、新しい薪を火の上に注意深く置いた。「とはいえ、ハーピーの“チャーム”を受け、解き放たれた者はその後、抵抗力が増すようではある。また、一つの戦闘中において同じタイプの“チャーム”に二度続けてかかることはありえない。」
コリンはうなずいた。「なるほど、これで私は奴らを打ち破るためのすばらしい知識を得ることができたわけですね。」レンジャーは急に悲しげな表情になり、カップの中をじっと見つめた。「奴らが来るのがこんなに早くなかったら・・。多くの旅人たちの命が救われていたでしょう・・・。そういえば、奇妙なことがありました。我々のうちの有志が危険を覚悟で行方不明者の捜索を行なったときのことです、我々はいくつかの遺体を発見したのですが、なぜかその所持品には荒らされた形跡がなかったのです。」
「それは極めて当然のことだ。」ドドリアンドは言った。「ハーピーどもは宝物やその使い道などには興味がないのだ。奴らがいったい何を使うというのだ?奴らはそれぞれ犠牲者を殺した記念として一個の物品を巣に持ち帰るのみだ、犠牲者から奪った物品を多く持つことはハーピーの社会でのステータスシンボルなのだ。」
「もし君がハーピーの巣を訪れたとしても、おそらく高価なものは見つからないだろう。奴らの犠牲者のほとんどは道に迷った旅人や巡礼者だ。彼らは高価なものはまず持っていない、おそらく指輪か財布といったくらいだろう。金、プラチナ、宝石、偉大な力と価値をもつマジックアイテムなどを君が見つけることは有りえない。ハーピーには火口箱よりも大きな宝石のほうを選ぶような分別は持ってないのだよ。また、ハーピーはダガーのような小さくて飛行に支障がなく携帯でき、使用できる武器を用いることがある、また犠牲者から取った骨を武器とすることもある。ほとんどの場合君が見つけるのは価値のない物ばかりだろう、犠牲者の遺体、ふん、羽毛、そしてハーピーの気まぐれで持ち込まれた物。奴らは清潔とは縁のない生物なのだ。」
老人は灰色の瞳を輝かせ、傍らにある飾り立てた木製のチェストの錠を開けるために立ち上がった。「私は君のもっとも賞賛すべき探索の手助けになるであろう品物を持っている。これは君にとっては、かつて私が助けられたときよりもはるかに心強い助けになるだろう。」
彼はチェストの蓋を開け、中を手探りして、コリンにとっては調べたいが安易に触れることがためらわれるような好奇心をそそる物品を取り出した。ドドリアンドは若きレンジャーの傍らに立ち、彼に骨製のスクロールケースを手渡した。コリンはケースの上にある止め金を動かそうとしたが、賢者はそれを押しとどめた。
「まだ開けてはだめだ。」彼は警告した。「このスクロールを読むことにより、君と君の仲間はハーピーの“チャーム”から守られる。・・・しかし注意するのだ!スクロールの効果は君が読んだときから永久に持続するわけではないのだから。」
「そのとおりにします。」コリンはケースを袋の中に押し込みながら、にっこり笑って言った。「あなたの助けに対する私の感謝の大きさと、私の仲間がするであろう感謝の大きさはとても言葉では言い表せません。しかし私も長居はしていられません、私がいない間にもハーピーどもは刻一刻と自分たちの領土を広げているのです。」彼はその広い肩にバックパックを背負い、賢者に小さな財布を手渡した。ドドリアンドは彼とともにドアの方へ静かに歩いて行った。レンジャーは扉のそとに立ち込めた淡い霧に隠れながら手を振り、叫んだ。「あなたの教えてくれたことは、みんなに話すつもりです。それでは失礼します!ありがとうございました。」
賢者も手を振り返した、しかし家に戻り、客間へと歩く彼の表情は暗かった。暖炉の傍らには羽根のあるヒューマノイドが炎で手を暖めていた。そいつは振り向くと賢者を疑り深く見つめ、なまった言葉を鳥の鳴き声の混じったようなよじれた声で話し始めた。
「あんたはあたしたちの一族について、いったい何をあの人間に話したんだい?」彼女はたずねた。
「心配することはない。」同じような奇妙な言葉でドドリアンドは答えた。「私はあの男にお前たちの“チャーム”に対して無防備になるようなスクロールを与えたのだ。サナタよ。お前たち羽毛ある一族の植民計画も上首尾に完了できることだろう。」
Part 2.
...Song of death ・・・そして死の歌声
by Ed Greenwood
「ハーピーは汚らわしき生き物だ。」エルミンスターはパイプをふかしながら言い、手を羽ばたくように動かしておどけて見せた。私は思わず感嘆の叫びをあげ(金のためだ、辛抱辛抱!)、テープレコーダーのスイッチが入っていることを確かめた。「奴らはセイレーンとも呼ばれていることをご存じかな?」彼はもったいぶるように言い足した。「ええ!?そうだったんですか?」私はいかにも驚いたかのように答え、彼にクッキーを手渡した。彼はそれを一枚つまみあげてかじりつき、その小さなチョコレートクッキーの破片が私にスプレーのごとく降り掛かったほどの勢いで(かけらが湿っていなくてよかった!)彼はバードのメラザーとダーククラッグのハーピーについての物語を始めた。ここにその要約を記す次第である(ただしクッキーのスプレーは除外する)。
ウォーターディープのメラザーは今でこそ人々の尊敬を受ける老人だが、昔はノースランドのあちこちの宿屋や酒場で吟遊詩人としての芸を磨いている若き放浪者であった。ある秋のこと、彼は小さなキャラバンと共に旅をしていた。
それはシバリームーンとトライボアの中間にある深い森の中で夜通し焚き火を囲んでいた時のことであった、したたかに飲んだ彼は意識朦朧とした状態で木々の間をさまよい歩いていた。彼は木に寄りかかり、今にも死にそうな位の苦しみに喘いでいた。そのときのことであった、彼は闇の彼方からかすかな、この世のものとは思われないような若い女の呼び声を聞いた。メラザーが驚いて耳を澄ますと、再び呼び声が響き、焚き火の方で彼の仲間のうちの何人かが起き上がり、調査を始めたかのような物音が聞こえた。彼は木の影に静かにうずくまったまま、4人の仲間が右脇を通り過ぎていくのを呆然と見つめた(彼は大変気分が悪かったのだ)。
やがて、いくらか気分が良くなった彼は、相変わらず響き続ける不思議な呼び声に耳を澄ませた。どうやらこの声は森の奥深いところから聞こえてくるようだった。ようやく月光が前方を強く照らすようになり、メラザーの目の前に小さな空き地が見えた。そこでは大きな生物が木の枝にとまっているように見えた(暗くて細かいところまでは良く見えなかったが)、そして彼の仲間たちがその周囲の空き地に立っていた、剣を抜いている様でもあったが、そこまでははっきりしなかった。そのとき、彼の上方の木から優しげな女性の呼び声が響いてきたのでメラザーは大変驚いた。彼が動けないでいると、彼の仲間たちは木のまわりに来て、辺りを見回しながら用心深く挨拶の言葉をかけていた。
そのとき、その生物は枝を揺らしながら翼を大きく広げ、空き地へと舞い降りてきた。そしてメラザーは見た、別の一団が彼の仲間たちに襲いかからんと木々から飛び立ってくるのを!「気をつけろ!」彼は叫んだ。「攻撃するんだ!ブロリム!ヘルマー!奴らは空中から襲ってくるぞ!」そう言って彼はベルトからナイフを抜き払った。そいつらは空中から腹立たしいような叫び声と奇妙な唸り声、そして吐き出すような喋り声をあげながら、月の光に輝くダガーを投げつけた、それはメラザーの目の前で不運なブロリムに突き刺さった。ヘルマーは幸運だった、彼が剣を構えて木の下に達すると、攻撃者たちは彼を遠巻きに囲んだ。空き地の向こう側では商人たちの一人、イエルガーと呼ばれた太った男が二匹の飛行生物に掴まれて空中に引きずり上げられていた。メラザーはそれを見てショックを受けた、それは奴らに抵抗できなくなったことを意味したからである。さらに彼は見た、その怪物は女の顔と体を持ち、翼と爪と尾は鳥のそれであることを。
不意に空き地の上空に一つ、もう一つと輝く光が現れ、メラザーはキャラバンの商人のなかでも年かさの“奇跡を起こす男”クロマーが来たのを見た。彼の創り出した“パイロテクニクス”を前にして、怪物たちは悲鳴をあげて飛び去った。イエルガーが奴らとともに空中高く連れ去られたにも関わらず、クロマーは気が狂った者のような身振りをし、何事かぶつぶつとつぶやいていた。その商人が木々の上空へと消え去ろうとした直前、光の球が彼の近くの空間に音もなく現れ、しっかりと輝き始めた。「光を追うんだ!」クロマーは叫んだ。「あっちの方だ!」ヘルマー、メラザー、そして他の人々すべてが木々の中へと剣や杖を振りながら枝をなぎ払い、突撃をしていった。間もなく彼らはイエルガーを見失ってしまったので、クロマーは無情と言えなくもないが、捜索を打ち切らせた。彼らはブロリムを埋葬し、火が小さくなってしまったキャンプへと引き返した。クロマーは僅かにこれだけ言った。「若いの、君は朝まで起きていたまえ。ヘルマー君は彼と一緒にいて、彼が眠らないように見張るのだ。もし君が例の呼び声をまた聞いたなら、君はハープを音高くかき鳴らし、歌うのだ、やかましいくらいに、つまりは大きな音を出せということだ!」
呼び声はその夜に再び来ることはなかった。翌朝、クロマーは言った、「さあ、昨夜見たハーピーのねぐらを探しに行こう、イエルガーはもはや生きてはいまいが・・。もしハーピーを見つけられなかったら−奴らの接触に気をつけろ!−奴らは我々のあとを追って夜に攻撃してくるだろう、我々にはあまり時間がない。さあ来るんだ!」
一行は馬と馬車に乗り、森の中へと出発した。クロマーは一行を数マイル離れたところにある岩山の連なりへと誘導した。そこは彼の言うところによると、奴らのねぐらに違いないということであった。彼は正しかった、“ダーククラッグ”(闇の岩)とその隣の岩との間の裂け目に10匹のグロテスクな生物がいるのを見つけたのである、そしてそこにはイエルガーの左半身が・・・。
その怪物どもは叫び声をあげながら空中に飛び出したが、クロマーの魔法とキャラバンの人々がふるった武器によって、6匹のハーピーが打ち倒され、残りも逃げてしまった。
これがメラザーにとって最初のハーピーとの出会いであり、彼の最初の作曲のときでもあった。これらは一般的には不幸な事件と言えるが、クロマーとイエルガーのために美しい詩歌を見いだすことの困難さを思えば、驚くにはあたらないだろう。
話が終わると、私はエルミンスターにハーピーについて、あなた方に伝えることができるようにと綿密な質問をした。以下がその答えである。
記
1.ハーピーの歌は以下のように獲物を引き寄せる。一つの呼び声を聞いた全ての生物は、その後の呼び声に対して注意を払う、つまり彼らは耳を澄ませて聞くのである、たとえ眠っていたとしても!この呼び声は190”の距離まで聞こえるのが普通であるが、風や嵐によって効果範囲を狭められたり、相殺させられたりする。第二の呼び声を聞いた生物は対呪文STを行わねばならない、失敗した者はその呼び声の出所の周辺へと赴く。彼らは妨害や障害もものともせずにそこへ進もうとするが、自我を失っているわけではない。戦闘的な行動は唆された犠牲者を怒らせるが警告には耳を貸すだろう。もし彼がその後の呼び声を落ち着いて調べられれば、彼は通常の警戒心を取り戻すだろう。多少の精神集中が必要とされる関係から、一匹のハーピーは一度に一人の人間しか影響下におくことができない。もし犠牲者の“チャーム”が解けたならば、ハーピーは別の者を自由に“チャーム”できるようになる。ハーピーの魅惑の呼び声に対するSTには以下のとおりの修正が加えられる。
“チャーム”を試みられたキャラクターがバードだった場合 +6
呼び声を聞いたキャラクターが魔法的な“フィアー”にかかっていた場合
+5
キャラクターが以前にハーピーの呼び声を聞いたことがあり、その声の出所を見つけたことがある場合 +4
キャラクターが過去一年以内にハーピーの接触による“チャーム”のSTに成功したことがあった場合 +1
キャラクターが過去一年以内にハーピーの接触による“チャーム”のSTに失敗したことがあった場合 −1
キャラクターが眠っているかまどろんでいた場合、およびキャラクターが周辺に注意を払っているか、今まで一度もハーピーについて聞いたことがなかった場合 −3
これらのST修正値は累積される。また、“フィーブルマインド”“スタン”“チャーム”“コンフージョン”の影響下にある者もハーピーの呼び声に耐性を持つ。これはいくつかの種類のインサニティ(精神病)にもあてはまる。とはいえ、ケプトマニアック(盗癖症)の者に対してはハーピーの呼び声は通常通りの効果を与えるし、カタトニック(緊張症)の者はそれに耐性を持っているのである。これについてはDMが精神病の種類と精神の混乱の度合を考慮して解決するべきである。
歌による“チャーム”に対する対呪文STに失敗した場合、犠牲者は前に述べたような“チャーム”の影響を受ける。犠牲者は直ちにハーピーの為に尽くすようになるわけではない、この魔法ではそれほど強い拘束力は得られないのである。もし“チャーム”影響を受けていない仲間のうちの一人が犠牲者に対してハーピーの真の意図を納得させようと試みた場合、−4の修正をつけた上で二回目の対呪文STの機会が与えられる。これは影響を受けた者一人につき一回だけ試みることができる。“リムーブチャーム”や“ディスペルマジック”ももちろん有効である。
バードキャラクターはハーピーの呼び声の正体を即座に悟ることができる。また、バードは人の歌声や呼び声をたやすく聞き分けられるがゆえに、たとえ今までハーピーの呼び声を聞いたことがなくても、それに対して多少の疑いを抱くことができる。その結果、バードは呼び声に対する抵抗力を持ち続けているわけである。バードの歌と演奏は、音楽が聞こえる範囲内では、どのレベルにおいてもハーピーの呼び声による“チャーム”を無効にする。また、熟練した歌い手の歌声も25%の確率でハーピーの呼び声を無効にする。澄み渡った音はときに呼び声の効果を打ち消すほどの力を持ち得るがゆえにである。この成功確率はハーピーの呼び声の効果を過去に相殺できた回数ごとに5%づつ増加していく。
同様に、“ライヤー オブ ビルディング”や伝説の“ハワードズ ミスティカル オルガン”“インスツルメント オブ バーズ”を演奏することでもハーピーの呼び声を相殺できる(演奏者は必ずしもバードでなくてもよい)。雷鳴や戦いの音も同様にハーピーの魅惑の呼び声を破る、また、“チャイム オブ オープニング”あらゆる種類の魔法の“ビワ(琵琶)”や“ベル”“リング オブ ヒューマン インフルエンス”“スタッフ オブ コマンド”“ロッド オブ ビガイリング”“ロッド オブ ルーラーシップ”も考えて用いれば同じ様な効果がある。しかしながら、これらのアイテムにはハーピーの接触による“チャーム”を妨げる力はない。“リング オブ コントラリネス”はその効果によってハーピーの呼び声による誘惑と“チャーム”の両方を妨害し、“ワンド オブ エネミー ディテクション”は呼び声を出すハーピーや接触によってキャラクターを“チャーム”しようと試みているハーピーをあばく。“オイル オブ ディスエンチャントメント”はハーピーによる“チャーム”を破るが、ハーピーの魅惑の呼び声を妨害することはない。
耳が聞こえなかったり、昏睡状態や深い眠りの状態、朦朧状態の者はハーピーの魅惑の呼び声に耐性を持つ、これは前に述べたように、“チャーム”や催眠術による“サジェスチョン”のもとにある者が影響を受けないのと同じ理由である。ハーピーの接触による“チャーム”は、その時点でかかっていた“チャーム”や“サジェスチョン”を解くが、キャラクターがそれによってハーピーにとって役に立つような“チャーム”の状態になるわけではない。それにもかかわらず、ハーピーはこのような場合、その後再び“チャーム”を試みることが許されている。“ベントリロキズム”の呪文や“ベントリロキズムポーション”を用いることによって、キャラクターはハーピーの呼び声を真似ることができる、これをハーピーの呼び声とは反対側の位置から呼ぶような形で用いると、1ラウンドあたり70%の確率でその効果を相殺できる。この作戦はいつも、うろたえ、怒り狂ったハーピーたちを調査へと駆り立てる。“サイレンス”の呪文もまた、ハーピーの歌による“チャーム”の効果を妨げる。
ハーピーはバードによるものやその他の魔法的な音楽による“チャーム”や“サジェスチョン”に耐性を持つ、また彼ら自身の“チャーム”能力ゆえに、彼らは“チャーム”の呪文に対して90%のマジックレジスタンスを持っている。
2.ハーピーは接触することによって“チャームモンスター”をかけることができる、これは精神に作用する生来の限定的な魔法であり、制約なしに使用できる。接触による“チャーム”は歌による“チャーム”より強力出あり、それゆえに成功させるのもより困難である。接触による“チャーム”を成功させるには、ハーピーが犠牲者となるべき者をしっかりと掴んでおく必要がある、言い換えれば、犠牲者への命中判定のダイスの目が必要値より2ポイント以上上回ることが必要なのである。“チャーム”のための接触は相手に何らダメージを与えず、“チャーム”を試みている間、ハーピーはそれ以外の攻撃や動作は行えない。目標になった生物はこの接触による“チャーム”に対抗するために、対呪文STを行うことができる、そしてSTに成功した者はその後のハーピーの“チャーム”の試みに対して6−9ターンの間耐性を持つようになる(これは同じハーピーでも別のハーピーでも同様である)、ハーピーの“チャーム”が効果を現さなかったことに気がついた者は興奮し、抵抗することだろう。
ハーピーは獲物を“チャーム”し、それをねぐらへ自由に運べるようにするのが普通である、ハーピーのねぐらは間道に沿っていて、短い“一飛び”で低い標高の場所へと襲いかかれる所にあるのが普通である。そのため、追跡者たちはねぐらまでハーピーを追って行くことはできないだろう。ひとたび“チャーム”された犠牲者がねぐらに連れてこられると、ハーピーは彼が装備しているすべての武器を取り上げる、また隠された武器やその他の品物も50%の確率で発見し、取り上げる。“チャーム”された犠牲者は、効果が続いている間はたとえ周囲に何がいようとも自分のおかれた立場忘れたままである。この“チャーム”はハーピーが犠牲者への肉体的攻撃を試みることで解けるのを思い出してほしい。もしハーピーの接触による“チャーム”のもとにある者がそれが解ける前に彼の仲間たちによって連れ戻された場合、彼はハーピーに再び会うために最初の機会に逃亡を試みるだろう。このタイプの“チャーム”を解く唯一の方法は、犠牲者に接触したハーピーを殺すことである。もし魔法を打ち破れなかった場合、“チャーム”は一週間後から徐々に解けていく。
ハーピーたちの間でのお気に入りの獲物には羊飼いや牧童なども含まれる、一度この者たちを手なずければ、家畜たちは簡単に豊富な食料源となるからである。このような蒸発事件は山賊や略奪団のせいにされるのが普通なので、捜索隊や民兵隊は実際に責任を負うべきはハーピーだということに気がつかないのである。ハーピーは獲物が巣から逃げ出す心配がなくなったときに初めて“チャーム”が解けるような攻撃と拷問をするであろう。ハーピーは非常に残忍であり、相手に苦痛を与えることを楽しむ。しかし、生き残りの者たちや傍観者たちへの拷問はハーピーの子供たちのための訓練といった意味合いで行われることが多い。ハーピーの子供たちは、年長者の指導のもと彼らの種族で使われている様々な攻撃法と狩りの技術についての講義を受ける。例えば、子供たちに協同で実地教授で教えるお気に入りの技術は、2匹のハーピーで獲物を空中に吊り上げ、お互いが逆の方向に引っ張り合って裂き殺すという者である。他にも、上空から岩を投げつけたり、以前の獲物から奪った武器で犠牲者を擦れ違いざまに引っ掻くなどの技術がある。大きく特に力強い獲物の場合は“チャーム”された状態のままでねぐらへ運ばれ、下方にある岩場へ突き落とされるのが普通である、これはハーピーが接近戦に入る以前に相手を行動不能にするための切り札的手段である。
3.戦闘においてハーピーはしばしば急降下して爪で引っ掻くことがあるが、むしろ安全な距離から犠牲者に岩を投げ落としたり、武器を投げつけることの方を好む。ハーピーが偶然に見つけた獲物に噛みつくのは、獲物が行動不能か弱いと思ったときに限られる。ハーピーの噛みつきは1−6hpのダメージを与える、もしこれによる傷で2hp以上のダメージを受けたら、3%の確率で急性で劇症の循環器系と腎臓の病気もしくは結合組織の病気に感染する(第一版ダンジョンマスターズガイド13−14ページ参照)。また、ハーピーの排泄物に触れると6%の確率で寄生虫にたかられる(第一版ダンジョンマスターズガイド13−14ページ参照)。ハーピーは不潔な状態のままでねぐらに戻ることはない、彼らは汚れて不潔な生物ではあるが、ねぐらは汚さないのである。
ハーピーは飛行する獲物に対してはいつも攻撃をかける前にまず翼を傷つけようとする(彼らは飛行生物とは同じ条件で戦うことを望んでいない)、そして戦闘に入ると彼らは通常、仲間同士で警告と命令の叫び声を交わし合う。知られている限り、彼らの言語は不明瞭で説明し難いものだと確信できる。ハーピーは獰猛な肉食獣であるが、本来は臆病な性質である。力を秘めた者ならば、ハーピーに魔法や強い力を見せつけることで彼らの魔の手から逃れられる。ハーピーは生来の臆病さを克服するため、2−12匹で“スクリームス”という一団をつくって狩りをする。この狩りの一団の名前は“ハーピーたちの金切り声(スクリーム)”に由来している。ハーピーはまた、貧弱なインフラビジョン(4”)とそれよりも僅かに優れたウルトラビジョン(6”)を持っている。また、昼間の光のもとでは彼らは人間と同等の視力を持つ、しかし彼らは上方にに位置するときにおいては地面を動くものに対して人間よりもはるかに鋭敏に察知できる。
4.“スクリームス”内では、女のハーピーは彼らの数が4匹以下に減ったら卵を産む。より大きな集団“トライブス”ではハーピーたちは通常ペアを組み、“トライブス”の数か50匹以下になったら卵を産む。孵化した子供の数が多い場合、弱いハーピーは“スクリームス”や“トライブス”のなかの別のメンバーによって殺される。“スクリームス”や“トライブス”の構成員が多くなるとハーピーたちは40日ごとに1−3個の卵を産む。生まれた卵のうち有精卵はわずか30%に過ぎない、これらの卵は孵化するまで11−20日の間温め続けねばならない(この仕事は群れのなかの成年ハーピーの全員が交代で行う)。一ケ月たっても孵化しなかった卵は“スクリームス”のメンバーによって貪り食われる。生まれたばかりの若いハーピーは1+1HDで“チャーム”の能力は持っておらず、攻撃では爪と噛みつきでそれぞれ1/1/1−2hpのダメージを与え、飛行することはできない。若いハーピーは両親によってさおの残忍さから守られ、“スクリームス”の他の者からいじめられることも滅多にない、ただし彼らに欠陥があったときはこの限りではない。若いハーピーがいるときも“スクリームス”は狩りに明け暮れているので、子供の成長も早く、すぐに狩りの手伝いができるようになる。子供が完全に成長し、攻撃力もつき、歌で獲物を“チャーム”による支配下に入れる能力を持つまでには1d4+14日間かかる。そして、生まれてから一ケ月たつとハーピーは接触による“チャーム”ができるようになる。若いハーピーは最後に飛ぶことを学ぶと(これにはさらに一週間程度の時間がかかる、その間は巣の周辺を飛んでは落ち、飛んでは落ちしているわけで、はたから見るとほほえましい光景ですらある)、巣の外へと最初の冒険に旅立つ。ハーピーは少なくとも短い滑空ができるようになるまでは、いつもねぐらの安全を任されている。ハーピーはお世辞にも器用な飛行者とはいえない、もし長距離の飛行を強いられたら、彼らは激しく消耗し、羽ばたきが重苦しくなったり、束の間急降下したりするのが普通である。ハーピーのマニューバビリティクラス(第一版ダンジョンマスターズガイド50−53ページ参照)はCクラスである。若い女ハーピーは生まれて2年たつと卵が産めるようになる、ハーピーは極端な例では60の冬を生きたことが知られているが、彼らの獰猛な生活様式から平均寿命は12−20年だと言える。もし“スクリームス”の構成員が12匹を超えたらグループは2つかそれ以上に分裂する。このような状況ではたとえ両方とも同じ“トライブス”に所属していようとも、もとの“スクリームス”の領域内では新しいスクリームス”は一つだけしか留まれない。さもないと弱い方の“スクリームス”は彼らのねぐらのある領域から追い出される。
5.ハーピーのねぐらは岩の裂け目、洞窟の連なり、廃墟などで見られることが多い。ハーピーたちはねぐらを定めるにあたっては人間たちによる妨害がなく、それでいて豊富な食料供給源がある、大きくて保護された地域を捜し求める。これらの地域は通常、獲物が足を使って逃げることがほとんど不可能な場所に位置している。また、ねぐらの内部はハーピーたちが飛び立つのに充分な大きさがあるのが普通で、“スクリームス”や“トライブス”のメンバーにはそれぞれ岩だなや岩の突出部、木の枝などが止まり木として備えられている。ハーピーたちは同じ基本領域に留まる傾向にある(これは直径約30マイルの円、もしくは延長およそ60マイルの海岸沿いの細長い地域)。そして、その地方の状況と自然環境を学ぶことにより、地形を利用して獲物を待ち伏せたり、厄介事から逃げたり隠れたりできるようになる。
ハーピーのねぐらには獲物の骨が散乱している、これは家畜からラージラットに至るまで全ての種類に渡っている。しかしハーピーの乏しい視力と限られた器用さから、当然のごとく小さな(Sサイズ)獲物は日常的ではない。中くらい(Mサイズ)の大きさの獲物はハーピーのお気に入りである、なぜなら彼らはたやすく“チャーム”して運べるし、食事にもちょうど手頃であるからである。これらの獲物が持っていた宝(武器も含む)はハーピーにとって食べることのできない不用品なので、ねぐらの床に捨てられ、散乱している。しかしながら、一部のハーピーは多くの人間やデミヒューマンから多量の光る金属類をひったくり、ねぐらへと犠牲者を誘き寄せるための餌として用いることもあるという。ハーピーはコイン一枚一枚やチェストやスタッフ、スタチュレット(小さな像)より小さいものを器用に掴んだり運んだりすることはできない。彼らは飛翔しながら革の財布、ストラップ、バルドリック(飾り帯)などのものをむしりとって邪魔をするのが得意である。
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With All the Trappings
ワナ掛けのすべて
ワナの設計と心理学の手引き
by Gregg Sharp
保安設備ギルド(組合)発行、グランム=ストーンウェーク著「ワナの構造」より抜粋。
ワナを設計するときは、まず第一に注文の依頼主のことを考えることである。すべてのワナは依頼主の要望と感覚を反映してしかるべきである。だいたい、みずからの評判が失墜せんという瀬戸際にある愛想の良いウィザードは豊かな砂漠の王国の高官と同じ種類の安全に関する問題をかかえてはいないだろう。
同様に裕福な大臣は肉体を引き裂くことのできる装置を罰せられる心配なしに使えるが、一般人の感覚からすれば彼の家の広間でバラバラの肉片になったシーフを見つけたなら当然腹が立つだろう。
ワナは大きく2つのタイプに分けられる。ひとつはパッシブ(受動的)に働いたり、隠されていたりするワナ、もうひとつはアクティブ(能動的)に働くワナである。パッシブなワナの構造は単純(作動部分が無いか、あってもごくわずか)で、一度仕掛けたら手入れがほとんど必要ない。これらのワナは固定され、そこを通過する者すべてを捕える。アクティブなワナもまた、作動するまでは待機する。しかしこのワナは作動させた者を連続した複雑な工程によって捕えたり殺したりするように設計されている(つまり、作動部分が多い)。アクティブなワナはしばしばワナの解除に失敗した者だけを捕えることに使われる。アクティブなワナには(銃の弾丸込めのごとく)日常の手入れが不可欠である。このことは2つのタイプのワナの相違点が単なる機構の違いにとどまらないことを指摘している。しかしまた支出や効果の問題についてもしかりである。アクティブなワナは、より多くの支出とより大きな効果をあわせ持つ。それに対してパッシブなワナは予算に乏しい客にあい変わらず好評である。
さて、本題に入る前に一つ勧告しておかなければならない。もし時間に余裕があるならば、客と最初の計画について相談するときには、私の同僚のデンリ=ライゼの“安全のエキスパートへの法的助言”というすばらしい論文を読むべきである。デンリは契約の締結と前金の受け取りについて、すばらしい事例を著している。デンリはまた、客が彼らの新しい保安設備の秘密を守るため製作者を殺そうとする例などを含む重大な問題についても言及している。この論文で述べられているいくつかのワナはこれらの客に対してすえつけられるものである。賢いワナ職人は自分の仕事の設計図を最低でも1人の友人のところに送っている。
◎パッシブな働きかけ
パッシブなワナは拘束、殺傷、魔法の3つの領域に大別できる。いたずら的なワナ(これは捕えたり、傷つけたりするよりは、シーフたちを混乱させ、悩ませるために設計される)は第4の領域とも言える。しかしこれらのワナは通常、他の3つの領域のどれかに含まれるし、いくつかのいたずら的なワナはアクティブなワナでもある。
拘束型のワナはあくまで捕えるためのものであり、引っかかった相手に実際に大きな肉体的ダメージをあたえるものではない。これらは良心的な人物や多くのマーチャントに大変好まれる。(つまるところ、店を営む典型的なマーチャントは自分の店のまわりをおびただしい血で汚されるのを好まないのである!)。パッシブな拘束型のワナの一例が“どんでん返しの踏み板”である。床の一部に圧力がかかると、このワナは単純なバネ仕掛けのドアのような蝶番式の動きをみせる。この“どんでん返しの踏み板”にかかると、踏み板はそこにまるでねずみ捕り器のように跳ねあがり、厚板が侵入者のくるぶしのまわりを締めつける。脱出することは比較的たやすいが、困惑させ、時間の浪費をさせることができる。もし、かんぬきによる固定がされているなら、なおさらである。
殺傷型のワナは必ずしも致命的ではない。これは侵入者に対して最大限のダメージをあたえた場合の効果を意味しているのである。パッシブなワナについてはしばしば、単純な拘束型のワナに傷をあたえる装置がつけ加えられる。単なる落とし穴の代わりに、例えば床からスパイクが突出している落とし穴が使われることもある。落とし穴は踏まれることによって開く仕掛け戸にカバーされる。そして開いた戸はバネの力によって再び閉じられる。
魔法のワナは致死型もしくは拘束型であるが必ず魔法的要素が含まれている。もっとも単純な形式の拘束型ワナは落とし穴を幻の床で隠すものである。ワナ職人は可能な場合、スペルキャスターの助力を得ることを注文されることがある。依頼人がスペルキャスターなら、なお好都合である。依頼人は金を払って造ってもらった落とし穴に彼自身が呪文をかけることにより、より効率的なワナにすることができるのである。
ワナ職人はパッシブ保安設備の製作にあたって、自我がなく、動かず、そして寿命の長いモンスターを利用することを奨められる。(もし法的に許されるなら)。ある王のために造られ、作者不明ということにされているあるワナは捕えた人々をゼラチンキューブが待つ、くず肉処分用の部屋へと続く落とし穴へと導くものであった。
持てる財産をつぎこんで造られたワナはもっとも効果的であり、しばしば人々の絶賛を受ける。このようなワナについての話を耳にしたなら、他の裕福な有力者もこのワナを自分用のワナとして即座に注文するだろう。このようなワナの一例として、彼の城のはるか下方にある、地下の川の凍えるように冷たい水へシーフどもを落下させるといったものがある。
◎アクティブな視点
アクティブなワナは通常、生物利用のもの、機械装置によるもの、魔法的なものの3つの基本型がある。生物利用のワナは動物や植物をこの機構の重要な部分として用いる。例を挙げれば、生物利用のワナとして、グリーンスライムは起動装置の上部に配置され、下を通る者の頭上へ落下させるために用いられる。このようなアクティブなワナは前に述べたゼラチンキューブのワナとは異なる。なぜならこのワナは作動する度に再び準備しなおさねばならないからである。そしてこの一連の機械装置類はワナの持ち主か腕の立つシーフによって無力化される可能性もある。忍耐強かったり、ある特殊な情況がくるのをじっと待つのを好む知性的生物はめったにいないため、このようなワナには単純な動植物がよく使われる。植物は実際上、手入れや世話をする必要がほとんどなく、へまをすることもめったにないし、買収しようと考える者もいないため好まれる。野蛮さで有名な生物であっても買収される可能性があるのである(番犬に牛のもも肉を投げ与えたらどうなるか見てみればよい)。もし動物を安全設備のなかに組み入れたなら、安全に関して取りかえしのつかない結末をもたらしかねない。
機械装置によるワナについては詳しい説明は不要である。これらは人々が一般に言われるところの“ワナ”を意味しているのである。バネ仕掛けのねずみ捕り、戸口につながるひもによって引き金を引かれるように仕掛けられたクロスボウ、チェストを開けると飛び出すように仕掛けられたシミターの刃などのすべてのアクティブなワナは単純な(しかし効果的)機構を用いている。これらのワナはそれぞれの、または一連の作動をした後には必ず整備をやりなおす必要がある。ばかばかしい程複雑な構造を持ち、人々の間で有名になり、シーフたちを震え上がらせるようなワナが彼らの支出や払った犠牲に見合うだけの価値を持つことはほとんどない。「KISS」(簡素に保て、おろか者!=Keep,It Simple Stupid!)という格言はそれに対する鋭い批判が含まれている。
魔法によるアクティブなワナはめったに見かけないが魔法を無効化することは単なるシーフの手に余る。品物を取り上げると叫び声をあげる“マジックマウス”を使ったワナは番兵ややじ馬を呼び寄せるが命に直接かかわるものではない。このようなワナの別の例として錠をこじあけようとしたシーフに魔法的ショックをあたえるものがある。このショックの効果は強力なウィザードによって永久化させることも可能である。“グリフ”や“シンボル”“アラーム”などを用いたワナが上記のものにあてはまる。これらワナのほとんどはスペルキャスターによって規則的に補充されることが必要な、限られた持続時間や限られた数の“爆薬”を持つ(これらの助力を頼むことは、ワナの所有者自身が行うのでもない限り非常に困難である)。
アクティブなワナの4番目の種類である毒のワナについての説明はそれほど多くはない。機械的なワナと組み合せて使われるこの種のワナはきわめて致命的なものになり得る。しかしこの種のワナの据え付けと継持にはアサシンかアルケミストによる助力がほぼまちがいなく必要となる。もっとも熟練したワナ職人だけがこれらの装置の製作をじっくりと考えて行い、使用にあたっては細心の注意を常に払うことだろう。
◎起動装置
起動装置には多くの種類があり、それらは主としてワナ職人の器用さと天賦の才能から出たものである。とはいえ、基礎を踏まえたこの本では初心者のためにいくつかの実例を挙げておく。
第一の起動装置は一般的なトリップワイヤー(低く張った針金)である。しかしながらこれは発見されやすく(これはしばしば指摘される)、起動させるにはワイヤーを切る必要があるかもしれない。−なんて不愉快な!ワナと関係のないトリップワイヤーは侵入者の歩みを遅くさせるためだけの目的で設けられることもある。トリップワイヤーは闇の中や階段、落とし穴のそばに設け、アクティブなワナの機械装置と組み合わせると効果的である。
第二の起動装置はウェイテッドレバー(重みで働くてこ)である。ある特定の敷石を踏むことで、てこに重みがかかって押し下げられると、反対側の端が持ち上がりワナが作動する。多く廊下に据えつけられる、てこで起動するワナの種類として、天井に仕掛けられたやり投げ器から、やりが飛び出す仕掛けのものがある。てこにかかる重みはあまりに軽いとワナは起動しないし、逆に重すぎると壊してしまうだろう。
第三の起動装置はスケール(天びん)である。ある重みが台座、またはそれに似たようなものから取り去られると装置が起動してワナが作動する。とある寺院にあると言われているすばらしいアクティブなワナは、黄金像の頭をはずすことにより巨大な丸石がワナを起動させた軽率なシーフの頭上に落下するというものであった。
第四のそして単純な起動装置は重みがかかると崩れてしまう橋板のような欠陥を放置しておくことである。その他様々な例があるがいくつかはワナ職人によって造られたものではないものもある。自然の腐食や消耗を経た場所はしばしば私のような拙いワナ職人を超えることがある。
単純なワナの解除は、たとえばドアの脇やドアの枠と一体になっている中空の像の内部を利用したりすることで、より一層わかりにくくさせることができる。とぐろを巻いた焼き物のヘビは砂を内部に詰められ、ウェイテッドレバーの解除に手間をかけさせるための部品に使われるのに好まれている。緊急時の避難においては、ワナの所有者はこれらのヘビの頭を一撃する(中に入っている砂を放出させる)だけで、ヘビのレバーが押し下げられたことで落下してくる金属製の落とし戸から逃れたり、きしみながらゆっくりと閉じる脱出口の扉を抜けられるのである。多くの依頼人は、解除や侵入、殺人の試み−しかし当人にとっては無駄な時間を費やされてしまう災難であるが!−がなされた場合に非常に役に立つこれらの工作物を喜ぶ。おそらくはワナを働かせる起動装置の魅力が身震いするような気持ちを呼び起こすのだろう。
圧力板もまたよく使われる。錠がおりている機械は階段の手すりに隠されていると考えよ。階段の最上段が不用意に踏まれると、隠された油びんの錠がはずれ、油が階段にそって低い方へと振りまかれる。もし火を起こすもの(小さな火打ち石のかけら)がこのワナに組み入れられるならば、炎が振りまかれてより多くの効果をあげられるだろう。
◎その他の考察
相対的に単純な機構を用いても、ワナの巧妙さはそこなわないようにすべきである。とはいえ、スプリング(バネ)やカンチレバー(片もち梁)、ヒンジドブラケット(蝶番式の腕木)、プレイ(滑車)そしてホイスト(巻き揚げ機)を使いすぎてもいけない。造るワナが複雑すぎるため、ワナ職人がワナの組み立て中にしばしばへまをすることがある。これは単純だが十分問題となる。
例として、哀れな「びっこのアルリク」について考えてみよう。ある王のために彼がつくったワナは天井と床と四方の壁からスパイクが飛び出す仕掛けがあった。壁のうちの2枚は中央で合わさるようにゆっくり動くようになっていた。不幸なことにアルリクは壁が床のスパイクの最初の列にぶつかるとどんなことが起きるのかまでは考えていなかった。さらにそのうえ、このワナは水圧によって動く仕掛けになっていたため、2枚の壁は破裂し、王宮内の広い範囲に浸水を引き起こしたのだった。そして「速技のアルリク」は名前が変わるくらいの拷問を受けたのである。
ほとんどのワナは、安全に通り過ぎるためにはワナを解除するか迂回するかのどちらか1つの方法しかない。これは依頼者本人を守り、ワナ職人に対してこれらのワナが使われることに対する障壁となる予防法である。すべり込み式のかんぬきは一定の場所に重みがかかり続ける限りはかかったままであるのがほとんど一般的である。アクティブなワナのいくつかは、その機構を用いてまで妨害する意義がないものがある。何人かの人々はこれらのワナの使い方を質問してきたが、それは時と場合による(例を挙げれば、ワナは高価な宝の隠し場への導きになってしまう)。特に腕の立つシーフはワナをくぐり抜けて宝を手にする方法を考えだすことができる。しかしながら、成功率は半分しかない。作動した、または今まさに作動しようとしているワナのただなかへ入って恐慌状態におちいった一人の護衛がいた。このような災難が起きるのを防ぐための方法を立てることにより、依頼人は費用をかけすぎてもかえって十分に護衛できないということを考えるだろう。護衛の代わりはそう簡単には見つからないことは少し考えれば分かることだ!!
いくつかのワナは、それを捜し求めているシーフに取られるくらいならば、守られている物品を移動させ、失なわれたに等しい状態にさせることもできる。明らかなことだが、依頼人はこの最後の選択をすることは望まないだろうが。このような方式のワナとして、宝石の載った盆を考えてみる。この盆は壁龕に設けられた滑降路へと滑り落ちるのである。
この項では、すばらしい腕前を持ちながらもバンパイアになることを運命づけられてしまったシーフ、「眠れぬザロバー」の例について考えてみよう。典型的なスパイクドウォール(とげの壁)、スネア(ひもワナ)、そしてアラーム(警報)は彼の前進を阻むことはなかった。しかしザロバーはもっとも基本的な用心をしていなかった。フレグラス伯爵の戦利品の部屋へ入ることに成功した彼は、部屋の中央に箱を見つけ、中に入っていたセプター(王笏)を盗みとった。セプターはもちろんニセ物−良質で高価ではあるが、本物ほど手間はかけられていないものであった。箱の上にある、うるし塗りの小さな木片が動かされれば、足下にあるニセ物などははるかにおよばぬ本物のセプターが見つかる筈であったのに。
つまり、シーフに発見されたものを盗ませる方がことによるとシーフをワナに掛けるよりは容易なのかもしれない。確かに、シーフが人並みの能力だったら普通は殺されているか、少なくとも捕らわれていただろう。「眠れぬザロバー」のような例は確かにまれである。しかしワナ職人は万一のときのことを考えて安全な手法をつくる必要があるのである。起動装置のうちのいくつかは圧力によって働く。しかしレプレコーンだったらこのような小さな障害などものともしないであろう。ワナでは捕えられないという考えで、より高度な保安設備を設計しなければならないのである。
憶えておくこと、ワナ職人はただワナを造るのではない。真のワナ職人は完璧に注文に合った保安設備を設計するのである。一つや二つのワナに頼るよりは多層的な設備の方を強く推せんする。実際、多層的保安設備の奥深くへと入り込む人間のシーフは見たところ不合理でなおかつ何の役にも立たない奇妙なにおいと液体−不愉快なーゾーンや吐き気を催させるバンパイアの成れの果てを発見できるだろう。ホーリーウォーター、ニンニクなどのような反応物は多くの生物に対して効果がある。武器の刃にかぶせた銀の薄層は超自然的生物にはきわめて効果的である。これらのワナは確実というわけではないが、保安設備の本当に内容に富んでいる部分は、製作者の名声を測り知れない程高めるでろう。
◎製作のコンセプトについて
あなたが設備の製作をするときは、その前段として、第一に依頼人のことを考えること。これは依頼人の道徳律について考慮するのみならず、代金を支払える程金に余裕があるのかまで考えることである。シーフギルドでは以下のようなたとえが言われている「金の卵を産むガチョウを殺すな。」これはシーフにとってはこういう意味になる「狙った獲物は再起不能にはするな。再起の機会を与えれば奴から再びむしり取ることができるだろうから。」ワナ職人にとってはこういう意味になる「依頼人の資力を超えるようなワナをつくるな。さもないと守るべき宝箱の中身がワナの制作費とその維持費に食われてしまう。」もしあなたが依頼人の支出に目を配っているなら、その報酬は仕事の増加となって現れるであろう。
さて、依頼人の職業について考えてみよう。王または名の通った戦士は護衛として派遣可能な部下を必ず持っている。従者の一団を持つことがほとんどないのはウィザードである。プリーストは日常的に護衛として奉仕が可能な信者たちが必ずいる。護衛(人間、動物またはモンスター)は必ず、保護物の外側の周辺部に配置されるだろう。
防御の結界の内側のように通常は誰も近づかないようにすることが要求される場所を守れる生物は、食物と水を頻繁に要すことの無い者のみである。道徳心のない依頼者たちのうちのいくらかは、このような所には、通常ある種の、または他のアンデットを用いる。同様な護衛者としては、ゴーレムのようなコンストラクトも含まれる。もしあなたの依頼人が宝の隠し場所へ頻繁に行けるようにすることを望んだ場合、安全を危うくしかねないということを、あなたは依頼人に忠告すべきだろう。ワナ職人のあいだではこれは「あなたの背後に御用心」という言葉で知られている。
依頼者が単に新しい宝を隠し場所へ置くことを希望することもある。これについての最善策は、一連の小さな落としどいを通らせることにより、財産を離れたところから運び込むことを可能にするものである。依頼人は多分、たまに自分の宝の隠し場所を見まわることを望むだろう。それ故、保安装置の見取り図(すなわち地図)が必要となるかもしれない。より安価な保安設備は保安設備に守られている宝の大きさが描かれた地図を守るであろう。そのため、護衛がいたなら(もし隠し場所が秘密でなければ)「ボス」は第一段階の安全を難なく確保できるだろう。
◎一つの好事例
ファランクスの街にあるグレイグリフォンインは、依頼人が代金を支払わなかったため、保安設備の構成における優秀な設計の実例とされた。この特異な依頼人は、ドロボー=レッドという極めて裕福な盗賊の男爵であり、このインの影の所有者である。彼の護衛たち(宿の用心棒に変装していた)は建物の警戒をしている。ドロボー=レッドの宝の隠し場所への入口は、実は地下室の壁に造り設けになっているがっしりしたビール樽のうちの一つにある。この設備についてはイラストで分かりやすく表示している。
第一のビール樽(#1)には仕掛けがある。他の2つにはそれぞれビールと蜂蜜酒が入っている。最初に栓を開けることなしに樽のノズルを回転させようと試みると、細かい毒の霧が噴出することになる。扉は、ノズルが回されると直ちに開けられるようになる。樽の後ろにあるシークレットドアは、樽の上部右上の隅にある、板の小片を押し下げることによって開かれる。現れた短い廊下は、北と南へ通路が続くT字路へと導く。南へ分かれる道は一見、ドアで終っており、護衛の姿も見えない−“パーマネントイルージョン”のおかげで、これらはかなり手が込んでいて、見破るのは困難である。鋭い嗅覚を持つ生物は、向こうの行き止まり(E)にある植物の持つ、独特なジャコウの香りから、それを見破ることができるだろう。これはまさしく、巨大なスナッパーソープラント、人によってはフォレスターズバイン(森人殺し)と呼ばれる植物である。廊下の天井には、鉄格子のはまった小さな窓が並んでいて、この植物の成長に十分な程の光を与えている。これらの窓は普通の腕一本分の幅ぐらいしかないうえ、カミソリのような刃があり、インの外に居る“庭師”によって常に監視されている。
北への通路は、自称宝探し人にとって唯一の道である。最初のドアは一般的な方式のワナは掛けられてはいない。その代わり、多くの小さなベルが、ドアの裏面に留められた、板切れから吊り下げられている。ドアを開けると、鈴の音が響きわたるが、驚かせること以外は何の反応も効果を起こさない。この音は30′以上離れた所にいる者を起こすには不十分ではあるが、シーフたちを恐怖と混乱に陥しいれられるかもしれない。護衛の部屋(F)には、小さな水がめ、簡易寝台、椅子、そしていくつかの日用品が置かれている。警報が発せられていると、より強力な護衛の一人が、ここの持ち場につく。また、ここには大きなドラとバチがくくりつけられている。もしドラが鳴り響けば、インに居る者を全員たたき起こす(常連客の多くは盗賊男爵の雇われ者である)。また、ここには2つのドアがある。北側のドアは小さな収納室に続き、もう一つのドアは東へ伸びる別の短い廊下へと続いている。
短い廊下(G)には、仕掛け戸による落とし穴がある。護衛の部屋へ続く方のドアを、まず閉めることなしに廊下へ歩み入ると、落とし穴の戸のかけ金がはずれて開き、シーフは30′下にある鋭い尖らせた金属性の杭の並ぶ底へと落下することだろう。
落とし穴の向こうにある小さな金属性のドアは、高さ約3′しかない。その向こうに続く廊下の高さもまた3′である。これは保安上の処置である。もし一人の人間が多量の宝を持って出ようとするなら、重荷を引きずる間にかなりの時間を費やしてしまうだろう。廊下を抜けるや否や、溝が現れる(H)。
ここでもまだ3′しかないので、飛び越えるのは困難である。溝の深さは40′、幅も同じ長さでこの部屋を走っている。天井の高さはここでも3′しかないので、飛び越えるのは困難である。溝の外縁は、曲がりくねっており(I)、これらは奈落を越える小さな橋として伸びている。所有者と、その部下のリーダー格の一人は共に、姿なき召使いを呼び出す呪文を知っているので、溝の北端に沿って狭い岩棚を造らせていた。呼び出されて、溝の反対側へ送られた魔法の召使いは、この道を難なく通り抜けられ、この場所に橋を降ろす。
そして現れてくる廊下は普通の大きさである。ここには吼えるライオンの像のレリーフが刻まれた、真ちゅう張りの一枚のドアがある。もしドアの錠が解かれたり、開かれたりすると、第一のドアの直後にある第二のドアに張り付けられた“ミラーオブオポジッション”という不思議な品が目の前に現れる。もしも誰かが、第一のドアを開ける前に、ライオンの口の内側に触れたならば、彼はどちら側からも固定されることのできない、真のドアの掛け金を見つけるであろう。すると第二のドアは第一のドアと同時に開く。
この地点を過ぎると、ドロボーの襲撃によって貯め込まれた、ばく大な宝の部屋(J)である。この部屋には様々な魔法の武器、宝石、すでに死んだ偉大なウィザードの呪文の書、種々多様なポーション類、さらに加えてうず高く積まれたコインの山が納められていることが知られている。このワナの機構は、合理性の強い保安設備の実例として、純粋に使われている。またこれらの実例がワナについて関心を持っていたり、ワナを使用する者たち全てにとって、考察のための資料となることが私の願いである。
そして、忘れるな−手形を弁済することを。
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Orcs Throw Spells, Too!
オークだって呪文を使うのだ!
AD&Dにおけるヒューマノイドおよび
ジャイアントのスペルキャスター
by Randal S. Doering
AD&Dのゲームの舞台のように高度に魔法が発達した世界では、魔法を使う能力を持つことが勝利の条件になることもまれではない。そのためAD&Dの種々のルールブック内においても、スペルキャスターについては他のタイプのキャラクターよりもはるかに多くの情報があたえられている。しかしそれらは未だにプレイヤーキャラクターとして許されている種族、ヒューマンとデミヒューマンについてのものに限られ、スペルキャスターたりうる第三の存在、ヒューマノイドに関してはごく僅かの情報しか提供されていなかったのである。
ヒューマノイドスペルキャスターに関する情報に関しては、ダンジョンマスターズガイドおよびレジェンド&ロアー(訳注、いずれも第一版)のなかに2、3の簡単な項目が見られるにすぎない。この情報は、ヒューマノイドスペルキャスターについての乏しい統計資料からつくられたにしてはすばらしい出来ではあるのだが、これらのあまり使われることのないNPCを動かすDMにとっての助けになるにはほど遠いものである。この記事は、ヒューマノイドスペルキャスターの作成、調整、演じ方についての助言から始まり、彼らの力がどのようにしてあたえられ、保持されているのかについての解説まで述べる。新しい呪文リストは今までのDMGのリストにアンアースドアルカナの呪文を追加したものである、フィエンドフォリオおよびモンスターマニュアルUで追加された新しいヒューマノイドについて、推奨されるレベル限界も合わせて示した。最後にそれぞれのヒューマノイド種族特有の宗教上の慣例について項目を割き、これらの慣例がDMがヒューマノイドスペルキャスターに肉付けするときの一助として用いられるようにした。
◎目的と問題
ヒューマノイドスペルキャスターは神に選ばれ、宗教心を高めさせ、ヒューマノイドの部族を結束させ、魔法を使うヒューマンやデミヒューマンなどの敵に対する守りの要となる象徴的存在である。ヒューマノイドスペルキャスターは魔法による戦いに耐えられる程の力があるわけではないが、ヒューマンの一族とヒューマノイドの間の緩衝体としての役割は果たせるであろう。つまり彼らの能力は攻撃魔法よりも防御やその他の呪文に集中する傾向にあるのである。
DMGではヒューマノイドスペルキャスターはまれな存在にするよう提案している、しかしなぜヒューマノイド種族の間に有能な支配者が不足しているのかについての理由は述べられていない。とはいえ、注意深く見れば、ヒューマノイドの間にスペルキャスターが少ないことについての合理的な理由が2つ現れてくる。まず第一に、これらの種族は戦士としての性格が強いこと、第二にヒューマノイドは(物覚えが悪く)おろかなことである。
下は1/2HDのかよわきコボルドから、上は14HDの恐るべきフォグジャイアントまで、ヒューマノイドは概して乱暴者という特性がある。ヒューマノイド系種族も24種をこえる数がいれば、少なくとも半ダースはニュートラルもしくはグッドのアライメントの種族であるが、残りはすべて完全なイビルである。
これらの邪悪なクリエーチャーの集団は彼らの隣人を襲うことで生活している。そのため彼らの力はもっぱら戦争の準備とその遂行に費やされるのである。他のことに使われる時間はごく僅かである。若いヒューマノイドは戦いの方法を学びつつ成長する、若者達は生まれつきの戦士として決められ、短い生涯を終えるというあらかじめ定められた運命の支配から逃れることが出来ないため、若いスペルキャスターの誕生はめったにないめでたいことなのである!
しかし、より大きなヒューマノイドの集団、特に平和であり、多少なりとも安全な状態を享受している場合、肉体的に厳しいヒューマノイドの生活に生き残ることができ、しかもそれに満足していない子供が現れることはまれではない。この者は肉体的な力はあまりに弱いように見えるがゆえに、他の仲間以上の利益があたえられるような力を得ようとする。もし、この者が幸運に恵まれていたなら、彼はスペルキャスターになることができるであろう。
さて、おろかなヒューマノイド種族にこのような新しい要素があたえる影響は微々たるものである。すべての場合において、ヒューマノイドはおろかで野蛮な状態になる傾向がある。それゆえ、呪文を使う能力を持てるほどの非凡なインテリジェンスやウィズダムを持って生まれたとしても、それをねたむライバル達に無情にも殺されてしまうのである。それに加え、他のヒューマノイドの群れは、しばしばスペルキャスターを擁する群れをねたむこともまた事実である。つまるところ、非凡な才能を持ったヒューマノイドにとっての前途は厳しく、ほとんどの者は弟子としての期間や、より危険に満ちた自己鍛練の過程を生き延びることができないのである。
この単純なる推論は、DMGにおいて何故ヒューマノイドスペルキャスターをまれな存在にするようにDMに勧めているのかを証明している。ただ、残念なことに、この過程についての具体的な規準はない。初心者のDMに言っておくが、ヒューマノイドスペルキャスターの配置にあたっては、ヒューマノイドの集団ごとに一人か二人のウィッチドクターまたはシャーマンしか配置しないように注意を払うこと。また、初心者DMの助けとなり、経験をつんだDMに対してもこれらのNPCの出現頻度を算出するための一助となるように、以下のような規準を提供してみた。
シャーマンはウィッチドクターよりも一般的であると考えられる(ウィッチドクターは2つの点において、より強力であるが故に)ため、ヒューマノイドの集団の最大出現数の25%ごとに5%の確率でシャーマンが居るものとする。例をあげると、ノールの出現数は通常20-200匹である。もし50匹のノール(最大出現数の25%)がいるなら、5%の確率でシャーマンが居るということになる。このノールのグループの構成員が50匹未満だとすると、シャーマンが居る確率は全くない、なぜならこの程度の規模の集団ではシャーマンを守りきることができず、スペルキャスターはすぐに失われてしまうからである。これはすべてのヒューマノイドにあてはまることで、最大出現数の1/4未満の数のグループ内にスペルキャスターが存在することはありえないのである、これはAD&Dのルールの補足だと思ってほしい。この原則は25%の増加ごとに適用する、つまり99匹のノールの集団ではシャーマンが存在する確率はあいかわらず5%にすぎないが、ノールが100匹になると確率は一気に10%になるのである。これはシャーマンの出現を最小限に抑え、スペルキャスターを不足状態にしておく働きをする。
しかしながらそれでもシャーマンはウィッチドクターと較べれば12枚の銀貨(まだ多い方)である。これらより強力なヒューマノイド達は2つの系統の魔法を修得している。これはデミヒューマンやヒューマンのスペルキャスターが、それを成し遂げるのと同じくらいまれなことである。ウィッチドクターが見いだせる確率は、シャーマンと同様に最大出現数の25%を規準にするが、その確率はわずか1%にすぎない。これは400匹から成る巨大なコボルドの集団においてでさえ、ウィッチドクターの存在確率は4%にしかすぎないことを意味するのである。
このシステムは、ジャイアントのようにきわめて小さな集団で生活するヒューマノイドに対しては使ってはならない、さもないとスペルキャスターが多くなりすぎてしまうだろう。最大出現数が通常20匹以下のヒューマノイドの場合、シャーマンの出現確率は一律5%、ウィッチドクターは1%とする。もちろん、集団が並外れて大きい場合(例、20匹のストーンジャイアント)にはDMの裁量で、出現確率を2倍ないし3倍にしてもかまわない。より弱いヒューマノイド同様にジャイアントの集団においてもスペルキャスターを守るに十分な数のメンバーがいることが必要である、なぜならスペルキャスターは呪術に没頭しているため、狩りやその他の生活のための活動ができないからである。ようするに、ジャイアントのスペルキャスターは、それぞれのタイプのジャイアントの通常の最大出現数の半分以上の数がいる集団内でのみ見ることができるのである。
ヒューマノイドの同一集団内にシャーマンとウィッチドクターが同時に存在することはない、そしてシャーマンの存在チェックは常に先に行なわれる。このシステムはヒューマノイドスペルキャスター(特にウィッチドクター)の数が少ないことを反映したものである、ヒュマノイドスペルキャスターをまれなものにしておくならば、彼らの登場はゲームの楽しさを保つに十分なものとなるだろう。
◎スペルキャスターの創造
ダイスによって、またはDMの意志によってヒューマノイドのグループ内にスペルキャスターが登場することになったら、DMはそれがバランスのとれたNPCになるように大いに骨を折らねばならない。オフィシャルのルールであたえられた規準は、これらのまれなクリエーチャーのレベルの割り振り方について曖昧であったため、送り出したNPCの力が弱すぎたり、強すぎたりしがちであった。ヒューマノイドスペルキャスターのレベルの割り振りは、そのヒューマノイドの集団の勢力を規準にするべきである。それには通常での最大出現数を、その種族におけるスペルキャスターの最高到達レベル数で割った数値を用いるとよい。以下にあげる例は、ヒューマノイドスペルキャスターのレベルの割り振りをするにあたっての参考実例である。
例1:オグルは最高20匹から成るグループで出現する、そしてオグルのシャーマンは3レベルまで成長できる。つまりオグル7匹につき、シャーマンは1レベルづつ得られるわけである。
例2:ホブゴブリンのウィッチドクターはクレリック能力は7レベル、マジックユーザー能力は4レベルまで成長できる。ホブゴブリンの最大出現数は200匹である。そのためホブゴブリン30匹につきウィッチドクターはクレリック能力を1レベル得られ、50匹につきマジックユーザー能力を1レベル得られる。つまり170匹で構成されるホブゴブリンの集団の場合、ウィッチドクターは6レベルクレリックおよび4レベルマジックユーザーの能力を持つわけである。
さて、この提案を早とちりすると、最大出現数が20匹以下のヒューマノイドの場合、最大出現数の半分未満のメンバーしかいないグループにはスペルキャスターが存在しないという条件があるために、オグルの1レベルシャーマンは存在しないことになってしまう。同じように、ホブゴブリンの場合でもスペルキャスターが存在するためには最低でも50匹(最大出現数の50%)が居ることが第一条件であるため、1レベルクレリックの能力を持つウィッチドクターは存在しないことになってしまう。低レベルのスペルキャスターは弟子(高レベルシャーマンの居る集団一つにつき5%の確率で1レベルクレリック能力者が、また同様に1%の確率で低レベルウィッチドクターが存在する)または単独でいるスペルキャスター(スペルキャスターのいない集団一つにつき一律5%で1レベルシャーマン、同様に1%の確率で低レベルウィッチドクターが存在する)をDMの裁量で追加したり、ヒューマノイドスペルキャスターのレベルを全体的に高めるため、DMの裁量により低レベルのスペルキャスター無しで済ませることもできる。
さて、スペルキャスターのレベルが決定したなら、彼が使用するための呪文を用意することになる。ヒューマノイドのシャーマンにはすべてのレベルのすべての呪文を使用できる者は存在しない。ヒューマノイドのシャーマンは、各レベルの呪文につき2種類までの呪文しか記憶できないのである(この記事の後の方で出てくる呪文リストを参照のこと)、またヒューマンやデミヒューマンのクレリックと同様に、彼らが信奉している神の領域の呪文を選択しなければならない。これらの呪文にはスペルブックは無いが、シャーマンはクレリック呪文の書かれたスクロールを(もし読めるのなら)使用することができる。この限られた知識は主として独学によって得るため、シャーマンによって使用できる呪文は様々である。DMはこれらの呪文をランダムにダイスで決めるか、自分で選択することができる。
もしシャーマンが新しいレベルの呪文を使用できるレベルに上昇することになったら、シャーマンはそのようなレベルに上昇するごとに、すでに使用できるレベルの呪文のリストもしくは次のレベルで使用できる最高のレベルの呪文のリストから2つの新しい呪文を得られる(3レベルに上昇することになったシャーマンは2レベル呪文を2個学ぶことができるのである)。これらの新しい呪文は、より経験をつんだシャーマンから教わることもあるが、そのシャーマンの信奉する神のしもべから教わることのほうが多い。シャーマンは知っている呪文のなかから、その日に得ようと望む呪文を選択するためには祈りと瞑想をしなければならない。シャーマンの記憶のなかに残っている呪文は、彼がそれらの呪文を知っているというだけでは使用するのに十分ではない(つまりその日に唱えることができるわけではないのである)。後で詳しく説明するが、シャーマンは高いウィズダム値による追加呪文を得ることはできない、しかし呪文の失敗確率については通常どおりである。
ウィッチドクターはシャーマンと同様にクレリック呪文が得られるが、彼らはそれに加えてマジックユーザー呪文のスペルブックを保持する資格がある。ウィッチドクターはランダムに選ばれた1レベル呪文が3つ書かれたスペルブックを持った状態で始め、レベルが上昇するごとに新しい呪文を一つずつ得る。この新しい呪文は、ウィッチドクターにとって使用可能な最高レベルの魔法のものである。ウィッチドクターは新しく得られた呪文が理解できたかどうかを、マジックユーザーがそれをしなければならないのと同様にチェックしなければならない(そのため、もしプレイヤーキャラクターのスペルブックがウィッチドクターの手に渡ったらそれは大変なことになる)。この記事の後の方で示すリストは、ウイッチドクターからウィッチドクターへと伝えられている一般的な呪文である。
それぞれのウィッチドクターは、このリストの他に一つないし二つの呪文を個人的な才能によって獲得していることにするのがよいであろう。チャームパーソンの呪文を使う悪名高いコボルドのウィッチドクターやマジックミサイルの呪文を使う恐るべきホブゴブリンのウィッチドクターについて考えてみたまえ。これらのNPCは幅広い知識をもつだろうし、キャラクター達が彼らに対して彼ら自身を試す機会をあたえることで刺激を与えられるだろう。ウィッチドクターは1冊のスペルブックしか持てない、これらのトラベリングスペルブックはウィッチドクターにとっては意味と目的のすべてとも考えられるものであり、時間や金、ましてや特技でさえも代えることのできないほど大切なものなのである(アンアースドアルカナの79-80ページを参照のこと)。
後で示すマジックユーザー呪文のリストを一見してみればわかるように、ウィッチドクター用のスペルブックについてはウィッチドクター自身には新しい呪文を解読したり書き込んだりする術がないという基本的な問題が持ち上がっている。もしDMが呪文が欠如しているこのオフィシャルのリストによって課せられた制限にかなう解決法をとるならば、ウィッチドクターのスペルブックは多くの原典から取り外されたページの寄せ集め以外の何物でもないことは確かであろう。このような呪文の寄せ集めは極めてずさんなものであり、これに対して魔法的な保護手段を用いることは不可能であることは明白である。さらに、この寄せ集めはPCが手に入れた場合の経験値および金銭的価値も半分しかない。もしDMがヒューマノイドスペルキャスターにも解読や書き込みに呪文の力が必要な真のスペルブックを持たせたいのなら、ウィッチドクターに最初に与えられる呪文に追加される形でリードマジックとライト(訳注、write、第二版には存在せず)の呪文を与えておかねばならない。これはウィッチドクターをより多才で強力な存在にすることだろう。 ヒューマノイドスペルキャスターは彼の部族の重要な部分であるため、部族の者達に守られているであろう。これらの者達は部族の副首領を守る者達と同じ能力と人数の護衛によってしばしば守られている。さらにスペルキャスターは戦争指導者の傍らにひかえて、彼の護衛と魔法を組み合わせることによって強力な防衛網を形成する。戦争指導者は必ず部族のスペルキャスターに守られている、これらのシャーマンやウィッチドクターは魔法による攻撃に対してのみの防御力しか持てないだろう。スペルキャスターの防衛の最終手段は、護衛の動物を近くに置くことである。ほとんどのヒューマノイドは護衛の動物を飼っている、これらの動物はしばしば彼らを飼っている種族よりもずっと獰猛である。低レベルのパーティーが数匹のジャイアントウィーゼル、12人の護衛、1,2名の戦争指導者とコボルドのウィッチドクターが同時にいるところに駆け込んだという光景を想像してみたまえ!しかしながら小さな集団を形成する強力なヒューマノイド(ジャイアントなど)には首領はいないし、護衛などもいない。言うまでもなく、この場合は群れのメンバーのすべてがスペルキャスターを守るために戦うのである。
◎マジックアイテムの使用
スペルキャスターの防衛手段について一度用意されたのであるから、残る部分は与えられるマジックアイテムの重要性がすべてだろう。おそらくもっとも偉大な力を持った、部族のスペルキャスターの能力はマジックアイテムの使用によるものであろう。ワンドオブファイアーの力を少し借りるだけで、ゴブリンのウィッチドクターは実に恐るべき敵となる。スタッフオブコマンドはホブゴブリンのシャーマンと出会うことの恐ろしさを増加させる。同様にカースアイテムも利口なヒューマノイドスペルキャスターの手に入ったときは致命的なものとなる。ネックレスオブストラングレーションは憎まれた副首領に対する良い贈り物になるし、スカラベオブデスは鎧を着ていない敵に対する優秀なミサイルウェポンとなるからである(投げ手がヘビーガントレットをしている場合)。それに対して、一般的なヒューマノイド達はこれらの物品が魔法的であることを理解できないであろうから、部族のスペルキャスターは彼らに警戒されるであろう。これらのNPCは一般的に使用できるすべてのマジックアイテム、もしくは適切な魔法が使えるキャラクタークラス(クレリックかマジックユーザー)が扱えるマジックアイテムを使用できる。それに加えて、シャーマンは(彼らの戦闘志向の性質により)たいてい戦士用のマジックアイテムも使用できる。これはヒューマノイドスペルキャスターにより多様なアイテムを使用させ、革新的なDMに対し、この種の非常に個性的なNPCを創造させることを可能にするものである。
これはコボルドのウィッチドクターのすべてがスタッフオブパワーを持っていると言うわけではない。ヒューマノイドスペルキャスターがマジックアイテムを得る確率はDMGの196ページにおいて適切なスペルキャスターのNPCとみなすことで決定される。重要なことは、ウィッチドクターは2つの表(クレリックとマジックユーザー)でダイスを振るということである、そして結果として彼らは半ダースのささやかなマジックアイテムを持つことになるだろう。もしこれが自由すぎると思えるのならば、より強力なヒューマノイドの部族にしかスペルキャスターがいないことを思い出してほしい、そしてそれらの部族は襲撃の回数も多いのである。スペルキャスターは彼の力を増大させるチャンスを求めて新しい宝を調べることは確かであろう、そのため多くのアイテムを集めることもありえるのである。
DMはまた、マジックアイテムを選んで決めることもできる。じっさい、1本か2本のポーションと1巻のスクロールはヒューマノイドスペルキャスターにとってはほとんど標準的な装備であるべきだろう。より幸運な者はマジックリングかワンドを持てるかもしれない。どちらの方法がとられたにしても、PC達が冒険の途中でこれらの魔法の装備を奪う可能性があることを心に留めておくこと。結果として、これらのアイテムによって、数または能力によって勝利を得たパーティーを過度に強力にし、それによってキャンペーンに障害をきたすことがないようにすべきである。
◎スペルキャスターを演じる
シャーマンは部族のクレリックである。彼はどのようなクレリックについても共通する役割(彼自身と戦争指導者を回復させ、保護すること)を持つ。これらのNPCが仕える神々はたいていイビルであるので、シャーマンは治療系の呪文よりも攻撃系と防御系の呪文を持ち歩くことの方が多い。結果として、コーズライトワンズをはじめ、ディスペルマジック、チャントなどがお気に入りの呪文となることが多くなる。治療系の呪文は戦闘後にシャーマン自身か、ことによると戦争指導者に使用するためにとっておかれることがしばしばである。シャーマンの神は力を信じており、部族の一般のメンバーのためにそのような魔法が浪費されることを望まない。実際、シャーマンが一般のヒューマノイドに対して直接に魔法的助けを与えることは非常にまれである、しかし彼自身と戦争指導者に対しては、いかに強力な魔法的助けであっても示すことは確かである。ニュートラルやグッドの神に仕えるシャーマンの場合は状況が許せば、より均衡のとれた呪文選択も可能である。このようなシャーマンは、その力を一族内の他のメンバーのために分け与えることも、より一層可能性があるだろう。
ヒューマノイドの神々は、アンデッドに対してはほとんど影響をあたえられないので、彼らの崇拝者達が知性あるアンデッド(グールやそれより高位のアンデッド)の力を借りることはありえない。DMGの呪文リストを一瞥すればオリジナルの呪文リストのなかにアニメートデッドが無いことが明らかになる、ヒューマノイドのシャーマン達は自分達が戦争の呪文に集中している一方で、ヒューマンのクレリックが彼ら自身の死者に面白半分に手を出すことに文句が言えないのである。しかしながら、イビルのアライメントのシャーマンはイビルクレリックがそれをできるように”弱い”アンデッドに奉仕を命じることができる(”弱い”アンデッドとはスケルトンとゾンビのことである)。ニュートラルおよびグッドのシャーマンは、これらの低級アンデッドをターンすることはできるが、命令することはできない。これらのシャーマンはアンデッドの思考作用に対する力は全く持っていないのである。
シャーマンは戦うことを十分に期待されており、レジェンド&ロアーのノンヒューマンズディーティーズの項にもあるように、彼らの征服戦争を支え、手助けするために特別な力(ヒットポイント)が与えられている。これらのシャーマンは鈍器しか使えないというわけではないが、ヒューマノイドの種族によって武器に制限が加えられる。ファイアージャイアントのシャーマンはグレートソードを使い、コボルドのシャーマンはショートソード、アックス、とげ付きのクラブを使う〜などである。シャーマンは勇敢さと血への欲望を見せることを期待され、接近戦を期待されることもしばしばである。彼らはすべての種類のアーマーをペナルティなしで身に付けられるため、彼らの部族内で利用可能な最上のアーマーと武器を使用する。
以前にも述べたように、シャーマンは高いウィズダム値による追加呪文を得ることはできない。これはすべてのヒューマノイドの神々が魔法による武勲よりも力の方を評価する事実からすれば当然のことである。これらの神々が授ける呪文はまず第一に神の力を証明するのみで、彼らはいかなるシャーマンに対しても敵を魔法の力のみで倒すことは許さない。その結果、これらの神々は彼らのシャーマンに対しては必要最低限の呪文しか授けない。
ウィッチドクターはクレリック呪文の使用に関する限りにおいては、シャーマンと同じルールを使用する。しかしながら、ウィッチドクターはアーマーを身に付けることはできず、普通のマジックユーザー用の武器以外の武器も使用できない。ウィッチドクターは魔法にのめりこんでいるため、戦うことを期待されてはいないのである。この魔法に対するのめりこみはまた、ウィッチドクターは一般的なヒューマノイドの神への奉仕ができないことも意味する(誰が彼のような病弱者のことを考えるだろうか?)。ほとんどのウィッチドクターは最も強力なデモンやデビルを崇拝し、彼らの力を呼び込む、残りの者達はイビルなヒューマンやデミヒューマンの神を信奉する。しかしながら、このことはヒューマノイド本来の神々を遠ざけることになるため、彼らはウィッチドクターがいる部族を怒り、敵とみなすことだろう。ウィッチドクターは力を誇示するため、強大な力にあふれた姿を頻繁にさらし、多くの呪文を使うことによってそれを償うことを強制される。ウィッチドクターは必ず、あらゆる種類の恐るべき遺物や通常ならざる物品類であふれた印象的な住みかを持っている。
この完全な力の必要性はウィッチドクターに数々の効果をもたらす。まず第一に、彼らは部族にもたらされたマジックアイテムと思われるすべての物品を掴み、貯えるであろう。その延長線から、すべてのウィッチドクターはアイデンティファイの呪文を熱望しており、それを得るためにあらゆる努力をつくすだろう。第二に、ウィッチドクターは彼らの力によって部族の信任を維持することが絶対必要であるため、彼らの呪文とマジックアイテムを自由に使うことができる。ウィッチドクターを抱える部族は、ヒューマノイドの神との不和ゆえの同種族とのトラブルに耐えている、そのため、部族の仲間はウィッチドクターがトラブルに見合うだけの価値があるという確固たる証拠を欲している。最後に、最高レベル(クレリック、マジックユーザー共に)のウィッチドクターはほとんど常に部族のリーダーとなる。この地位になると彼らはこれ以上の呪文能力を獲得することはなく、すでに持っている能力による利点で満足する必要がある。彼らはこの地位を明らかに物理的な方法(前のリーダーを粉砕するなど)もしくは、より陰険な方法(リーダーにチャームをかける)などで獲得できる。前者の場合においては、ウィッチドクターは強大な力を持つ必要がある、さもないと部族の他のメンバーは逃げ出してしまうだろう。後者の選択はDMに対して広い展望を開く、例を挙げれば、DMはPC達が戦争指導者と対戦しているとき、利口なウィッチドクターはその背後に立って、彼の敵がお互い同士殺し合うのを見物するように設定できるのである。
ニュートラルやグッドの神に仕えるウィッチドクターは、たぶんそれほど欲深くなく、乱暴でもないだろう、しかし彼らは確実に神秘的である。彼らもまた、その能力によって守られており、それを維持するためにはどんなことでもするだろう(たいていは、うそとごまかしを用いて)。そのようなウィッチドクターは、大きなプレッシャーのかかる彼らの悪の片割れのもとにはほとんどいないので、彼らの部族を率いるのはまれなことにすぎない。
最後に、短い一時期(最大でも数ヶ月)を過ごすような場合を除けば、ヒューマノイドスペルキャスターには過去にいかなる種類の神殿でも建造したり住んだりしていた者はいない。全てのヒューマノイドは放浪者である、これは彼らがねぐらで見いだされることがあまりないこと、および彼らの神々は彼らヒューマノイドが狩猟と襲撃によって生活することを望んでいることによって証明される。神殿の存在は、スペルキャスターが神の力によって部族を徴発し、襲撃を続けることが不可能になるような責務の発生を意味する。さらにそのうえ、そのような安易な生活はスペルキャスターを怠情にして、体力的弱さをさらに深刻化させるかもしれなかった。神々はこのようなひどい状態が起きることは全く許さない。定住性の部族の間でも、ニュートラルおよびグッドの神のスペルキャスターの崇拝領域の装飾は単純かつ質素である、これは、これらのグループもまた、イビルないとこと同じくらい放浪性をなお留めているという事実を示している。
◎ニュースペルリスト
DMG40ページに示されたスペルリストには、アンアースドアルカナの呪文を新しくとり入れる必要があった。表1および2で規定された呪文リストは、以上の理由で古い呪文リストに新しい呪文を追加したものである。アンアースドアルカナからの呪文はDMGで与えられているガイドラインに沿って注意深く選択されている、つまりそれらは、まず第一に防衛的なもの、およびその他様々な領域に属す呪文が含まれる。DMはこれらのリストを過度に多くの戦闘呪文を与えることによって、このようなNPCの本来の目的を破壊することのないよう気をつけているならば、適切な形に変更することができる。アンアースドアルカナから採られた呪文はアスタリスク(*)で示される。ウィッチドクターはカントリップを使用できる、しかしその種類はDMがそれぞれの状況に合わせて明確に指定したものを決めた場合に限られる。そのため、これらの呪文(カントリップ)は表1および2には含まれていない。ヒューマノイドスペルキャスターもまた、逆呪文があるものについては逆呪文を使うことができることも記しておく。
◎ニューヒューマノイドスペルキャスター
AD&Dのゲームにおいて2冊の新しいモンスターブックが追加されたことにより、スペルキャスターが可能なヒューマノイドのリストも更新される必要がある。表3はスペルキャスターが可能になった幾つかの新しい種族、およびその最高到達レベルのリストである。ルールブックのなかでスペルキャスティングクラスについて述べられている種族については表3には再録はしていない、また呪文に似た能力を持つ種族も除いている(これらの種族は特に記述のない限り、呪文は使えないからである)。DMは必要ならば表3に掲げられた情報を自由に修正できる、おそらくはそれらはク−ランやその他の種族についての追加情報であろう(これらの種族は本来スペルキャスターをサポートするにはあまりにも数が少なすぎるため、真っ先に締め出されてしまったのである)。ジャイアントの間においては、メンバーのうちの一人が狩りのかわりに学習と瞑想をしても支障がないくらいに強力であるので、小さい集団でもかまわない。しかしながら、比較的弱い種族の場合彼らの生活は、いかなるメンバーにも贅沢が許されないほど生存のためのギリギリの戦略に忙殺されている。もしキャンペーンにおいてのシチュレーションがこれと異なるのならば、この項およびDMGにおいて提供される資料はDMがヒューマノイド種族に呪文能力を与える場合の助けになるだろう。
シャーマンのレベルの最大限度である7レベル、およびウィッチドクターにおけるマジックユーザー能力の最大限度である4レベルは鉄則であり、決して変更してはならないことを記しておく。ヒューマノイドの精神はあまりに粗雑なので、これらのレベル限度を越えることができないのである(これは、この項で述べられている並外れた才能を持った者達についても同様である)。もし、より高レベルのスペルキャスターが必要ならば、イビルヒューマンもしくはデミヒューマンのスペルキヤスターを用いること。
◎神とシャーマンとの関係
この記事ではここまで、スペルキャスターについてDMの助けとなるようなガイドラインを述べてきた。このセクションは、特定のヒューマノイドの神とそのシャーマンとの関係(興味深い風習、および神がシャーマンへ授ける特殊能力についての解説)について割かれている。これらはより細かいディテールをヒューマノイドスペルキャスターに加えるのに役に立つし、より個性的なNPCを創造することにも役立つだろう。レジェンド&ロアーの付録3(クレリック早見表)は、これらの風習の良い背景となるだろうし、この後に記すどのような項目とでも関連させて役に立たせられる。ここに関係を記している神々は基本的なものだけである、その他の神々との関係についてはDMが設定すること。
バグベアー
ヒュゲック(Hruggek)は苛酷な神である、彼は毎月、シャーマンのレベルごとに2レベルもしくは2HD分の敵を生けにえとして要求する。その義務を果たせないシャーマンはその後一ヵ月は呪文が得られない。捧げた生けにえのレベルもしくはHDが5レベル(HD)追加されるごとに1%の確率で、シャーマンはその翌月から、使用可能な最高レベルの呪文を一つ追加で得られる。もしシャーマンがその追加呪文を翌月のうちに一回も使用しなかったら、その呪文は撤回される(しかし、生けにえの豊富さによっては、取り戻すことも可能である)。シャーマンは、このボーナススペルを自分で選択することができる。
レベルが与えられるとき、これらのシャーマンは、シャーマンの持つレベルに等しいHDかレベルを持つ敵を10匹以上レベルアップのための生けにえとして捧げなければならない。適切な生けにえを捧げられないシャーマンは、ヒュゲックの天罰により即座に死を賜わる。最低でも20レベル(HD)以上の生けにえを捧げた場合、5%の確率でシャーマンは1hpの追加hpを得られる(そのレベルのhpダイスの目に1を加える)。
このシステムは、より多くの生けにえに対して報酬を与えることにより、バグベアーのシャーマン達をより多くの生けにえ集めに駆り立て、生けにえとして好まれる弱い種族の間に、彼らに対する恐ろしい評判を立てさせるのである。
エティン
エティンはヒルジャイアントとともにグロランター(Grolantor)の信者ではあるが、その風習は彼らの、より弱い親族とは大いに違っている。エティン達は極度に強い者を除き、神への敬意を表することはない。このような態度のため、そしてグロランターはヒューマノイドの神としては最低のインテリジェンス値であるという事実から、この神はエティンのシャーマンには呪文を授けない(第1レベルおよび第2レベルの呪文は、シャーマン個人の信仰心によるものであり、神から授けられるものではないことを思い出して欲しい)。エティンのシャーマンはグロランターに生けにえを捧げないし、神から特別な恩典も与えられない。
ファイアージャイアント
サーター(Surtur)は、彼のシャーマンに生けにえを要求することはない、しかし決して破ってはならない一つの掟を課している。彼のシャーマンは個人戦では決して敗北は許されない。そのような者は、すべてのクレリック能力を奪われ、神に烙印を押され、その結果、破戒者として他のファイアージャイアントから追放される。この烙印は破戒者の顔面に、刃先があご先に、つか頭が額に位置するようなフレーミングソードの形で刻まれる。この烙印はジャイアントの黒い肌とは対照的な銀色をしており、何かで覆われたり、隠されていても見ることができる。この不名誉は死んでも消えない。
サーターのシャーマンは7レベルに達すると、月に一回、8HDのファイアーエレメンタルを召喚する能力が授けられる。召喚には1ラウンドを要し、その後1-4ラウンドのうちにエレメンタルが現れる、このエレメンタルは6ターンが経過するか、破壊されるまで、そこに留まる。エレメンタルはシャーマンとは無関係に活動するため、コントロールのための精神集中は不要である。この能力はボーナス能力であり、いかなる種類のシャーマン呪文とも無関係である。
フロストジャイアント
スリム(Thrym)は一つの点を除けば、サーターと同様な戦いの掟を課している。戦いに負けたフロストジャイアントのシャーマンは即座に死ぬのである。スリムは、普通言われているような形式の生けにえは要求しない、しかし彼はシャーマンの一族がヒューマンの集団と戦う度ごとに、一人のヒューマンを、生きたまま無傷で凍らせた状態で獲得することを要求する。もしそれに失敗すると、シャーマンはすべての特殊能力を奪われ、永久にただのフロストジャイアントになってしまう。
フロストジャイアントのシャーマンには、レベルが与えられる度ごとに厳しい試験が課せられる。試験の種類は様々であるが、最低でもフロストジャイアントのHDおよび力に等しい強さの敵(4匹のオグルとの戦いは、よい試練となるだろう)との戦いは、全ての例に共通である。さらにそれに加え、これらのシャーマンは彼のレベルごとに5,000gp分の宝石をスリムに捧げ、さらに得られるレベルのために10,000gp以上を犠牲にしなければレベル上昇の適格者とはならない。
それでも十分でないかのように、全てのフロストジャイアントはシャーマンに死を賭けた戦いを挑むことができる。勝者は、それがチャンピオンであれ挑戦者であれ、シャーマンの能力を得る。つまり、5レベルのフロストジャイアントのシャーマンが普通のフロストジャイアントに負けたとすると、勝者は敗者の持っていた5レベルシャーマンとしての追加hpと呪文能力を得て歩き去ることだろう。
さて、この危険に満ちた生活についての話に戻ろう、フロストジャイアントのシャーマンは2つの力を授かる。5レベルに達するとシャーマンは週に一度、ウォールオブアイスを、10レベルマジックユーザーが呪文を使ったのと同様の効果でつくることができるようになる、7レベルになると、シャーマンは月に一回、8HDのアイスエレメンタルをパラエレメンタルプレーンオブアイスから召喚できるようになる。この能力は、ファイアージャイアントのシャーマンのものとほとんど同じである(先のセクションを参照)。これらの能力は共にボーナス能力であり、シャーマンの呪文の追加とは、全く別のものである。
ヒルジャイアント
ヒルジャイアントはグロランターを信奉している(先に述べたエティンとは異なる)。おそらく、これはなぜヒルジャイアントのレベルがエティンのそれよりはるかに高いのかということの理由であろう。ヒルジャイアントのシャーマンは、グロランターのための生けにえは要求されないが、ほとんどのシャーマンは、とにもかくにも神に対して、敵や小さな貴重品類を捧げることを好む。グロランターは、しばしば勤勉なシャーマンに、ドワーフに対する命中および損害判定が+4される特別製のマジッククラブを与えて報いる。この武器はヒルジャイアントのシャーマンの手にあるときのみに効果を発揮し、他の者には役に立たない。ヒルジャイアントのシャーマンはレベルごとに5%の確率で、このクラブを手に入れるチャンスがある。
ストーンジャイアント
スコラエウス=ストーンボーン(Skoraeus Stonebones)のシャーマンには、彼らの選んだ生き方をすることが許され、レベルが与えられるときにも、生けにえも試験も必要ない。しかしながら、彼らの大地に関する接近により、これらのシャーマンは、ある種の呪文の使用が制限され、他の種族のシャーマンには使えない種類の呪文に対して道が開かれる。禁じられている呪文は、アース以外のエレメントに関係する呪文で、レジストファイアー、フレームウォーク、およびウォーターウォークなどの呪文が含まれる。その代わりとして、以下の呪文がストーンジャイアントのシャーマンのスペルリストに加えられる。ストーンシェイプ(第3レベルドルイド呪文)は第3レベルのスペルリストに加えられ、スパイクストーンズ(第5レベルドルイド呪文)は第4レベルのスペルリストへ、またウォールオブストーン(第5レベルマジックユーザー呪文)も第4レベルのスペルリストに加えられる。
ときどき、ストーンジャイアントのシャーマンのなかでも、スコラエウスに対して特に信仰心のあつい者は、全ての物を神に捧げ、1枚の銅貨、またはささやかなポーションより多くの物を保持しないこともある。スコラエウスは、このような敬虔なシャーマンが7レベルに到達したときに、月に一回、アースクエイクの呪文を唱えられる能力を与えて報いる。この力は、1ターンの間、直径60'の範囲に影響を及ぼす、その他の点については同名の第7レベルクレリック呪文に準じる。出会った7レベルのストーンジャイアントのシャーマンのうち、5%がこの能力を持っている可能性がある。
ノール
イーノグー(Yeenoghu)のシャーマンは、疑うまでもなく、ヒューマノイドの信仰する神々のなかでも最も気性の荒い神を持っている。ノールのシャーマンは彼らの力を維持するために、毎月の祭祀において4レベル(HD)に相当する敵と戦い、生けにえとしなければならない。この生けにえは自らの肉体、またはダガーを武器として用いることが許される、それに対するシャーマンは魔法を使わず、彼のフレイルのみ(ただし、魔法のフレイルは使ってもよい)で相手をしなければならない。もし、この生けにえがシャーマンを殺したならば、その人物またはクリエーチャーは自由の身になれる。
レベルが与えられるとき、ノールのシャーマンは自分自身の肉体をレベルごとに5hpの割合で鞭打たなければならない、また、得ようと望むレベルのために、さらに6hpのダメージを自分の体に与えなければならない。新しいレベルのための試練に耐えることのできないシャーマンは、彼らが苦痛に耐えられるときが来るまでレベルを凍結させられる。例を挙げれば、4レベルになることを望んでいるシャーマンは、最低でも21hpのダメージを受けられなければ、3レベルのままである。この試練は、最も強いノールだけが力を得ることができるということを証明している。この場合、ノールのシャーマンが自分を鞭打つことで0hpになっても、死ぬことはなく、単に意識不明になるだけである。鞭打ちによるダメージは1hpである。
この試練に対する返礼として、シャーマンはレベルごとに2体のグールに対して自動的に命令をできる能力を授かる、これらのクリエーチャーは、シャーマンの召し使いとしてもたらされる。多くのノールのシャーマンは、このような忠実なペットを得たことにより、ノールによる護衛を廃止する。ノールのシャーマンは、他の神のクレリックのように、グールをコントロールするためのダイスを振る必要はない、彼らの神とグールとの間の関係から、彼らは自動的にこれらのクリエーチャーをコントロールすることが許されているのである。ノールのシャーマンはまた、第3レベルの呪文として、ネガティブプレーンプロテクションを選択することが許されている。
ゴブリンおよびホブゴブリン
ゴブリンおよびホブゴブリンのシャーマンは、共に巨大なゴブリンの姿をしたマグルビエット(Maglubiyet)を崇拝している。この神は、両方の種族を同じ態度で扱う。これらのシャーマンは、毎月の祭祀ごとに、シャーマンのレベルごとに2レベル(HD)分の敵の、生きた心臓を捧げなければならない。重要なのは、これらの敵がソウルを持つものでなければならないことである(アニマルのスピリットには、この生命エネルギーはない)。「強力な存在」はそれ以外は全く何も受け入れない。望みにかなうような捧げものをできなかったシャーマンは、次の戦いのときから、呪文能力および追加hpを失い、二度と取り戻すことができない。[ヒューマン、ドワーフ、ノーム、ハーフリング、およびハーフエルフはソウルを持つ。エルフ、ハーフオーク、およびその他の生命体にはソウルはない。]
レベルを獲得するためには、シャーマンは自分が得ようと望むレベル以上のヒューマンの戦士の、まだ打ち止まぬ心臓を捧げなければならない。この捧げものは、シャーマン自身の力、もしくは魔法で打ち倒されたものでなければならない。
マグルビエットのシャーマンは、治療系の呪文を使えない。これには、呪文のタイトルに「キュア」という言葉が含まれているもの、およびニュートラライズポイズンが含まれる。ゴブリンおよびホブゴブリンのシャーマンは、これらの呪文の逆呪文ならば、自由に使うことができる、同様に、幾つかの戦闘用呪文、コマンド、スピリチュアルハンマー、およびスティックトゥスネークス、もマグルビエットは使用を認めている。さらに、5レベルまで生き延びたシャーマンには、フィアーに対する耐性(魔法によるものも含む)が与えられる。これは、「強力な存在」は彼のシャーマンが戦闘から逃げることを見るのを、無条件に嫌うからであると言われている。
コボルド
コボルドのシャーマンは、彼らが受け取る追加hpにより、仲間よりも遥かに生き残りの能力が優れているため、他のどのヒューマノイドのシャーマンより、よい立場にいる。そのため、カートルマク(Kurtulmak)は、彼のシャーマンに厳しい試験を課す。
カートルマクのシャーマンは、シャーマンの一族が攻撃するとき、敵の集団全ての、首領および副首領を自分の手で殺さねばならない。シャーマンは、これを達成するために魔法も武器も同じように使うことができる。どんな理由があろうとも、一回それに失敗すれば、シャーマンはその時点のレベルで凍結させられる。二回の失敗は、コボルドのシャーマンの全ての能力と追加hpを永久的に剥奪されることを意味する。
コボルドのシャーマンは、レベルを獲得するために、ノームを生けにえにしなければならない、それは多くのレベルを持つノームのうちでも、シャーマンが得ようとしているレベルより一つ上のレベルの者でなければならない。最後の力(5レベル)が与えられるとき、それぞれのシャーマンは、生けにえ用のノームを自ら狩りをして捕獲しなければならない。この最後の試練については、マジックアイテム、呪文、および毒の使用が許される、しかしシャーマンは、誰の助けも借りず、一人でノームを捕獲しなければならない。この試練に失敗、またはいかさまをすると、コボルドのシャーマンは、全ての能力を永久的に剥奪される。
5レベルになると、コボルドのシャーマンは、独特の能力を授かる。これは、ファインドトラップスの能力(第2レベルのクレリック呪文のそれと同様)である。この能力は永久的であり、この種族がワナと待ち伏せを好むことの延長から授けられている。このような理由から、高い地位のコボルドのシャーマンは、彼の一族が新しい領域に侵入するときには、しばしば前線に見い出される。この能力は、精神集中なしで常に働く、そしてそれにシャーマンの通常持ち歩く呪文が加わるわけである。
リザードマン
セムアーニャ(Semuanya)の崇拝者は、リザードマンのなかでも文明化されたグループの間でのみ見られる、未開のリザードマンは、この神のニュートラルの法典に従わないのである。この神のシャーマンには試練が課せられることはないが、部族にもたらされたすべての戦利品について、10%分を神への捧げものとしなければならない。文明化されたリザードマンは、ヒューマン、およびデミヒューマンを戦利品とは考えないので、一般的に、彼らを解放するか、身代金のために捕まえておくかの、どちらかだろう。
セムアーニャのシャーマンは、感情に左右されない、爬虫類的な理想を求めているため、感情に影響を及ぼす呪文(フィアーに関する攻撃、シンボルオブホープレスネスおよびディスコード、そしてコンフュージョンの呪文)に耐性を得ている。さらにそのうえ、これらのシャーマンは、接触によって感情を操作するといった、厄介なクリエーチャーの攻撃効果を払う試みが可能である。この的とされた者は、+4の修正で再度、STを行なうことができるのである。リザードマンのシャーマンは、この能力を、1ラウンドにつき一回の割合でならば、一日に何回でも試みることができる。他のシャーマンが神から授かっている能力と同様、この「正気を取り戻させる」能力はボーナスである。
ロカザーおよびマーマン
ロカザーおよびマーマンのシャーマンは、同一の神、イードロ(Eadro)を崇拝し、神によって平等に取り扱われる。ロカザーのシャーマンのレベル限界が、マーマンのそれより低いのは、彼らがマーマンより冷静かつ論理的な傾向があるため、目に見えない神に対して信用を置くことが難しいからである。これらの種族のシャーマンは、ほとんど神の干渉を受けず、捧げものの必要もない。シャーマンは、自動的にレベルを与えられ、信仰心を持ち続けているならば、試練をくぐる必要もない。
イードロのシャーマンは、火に関する呪文およびその種のエレメントからの保護を受ける類の呪文の使用が禁じられている。その代償として、ロカザーおよびマーマンのシャーマンは、火を用いる陸上の敵に対して使うため、プレシピテーションおよびクラウドバーストの呪文を選択することが許されている。それに加えて、最高レベルのシャーマンのうち特に優れた者(全体の約5%)には、イードロから魔法のほら貝が与えられる。この貝が吹き鳴らされると、8HDのウォーターエレメンタルが召喚される。エレメンタルは、次のラウンドに到着し、破壊されるか、一時間が経過するまで、そこに留まる。これは自分のために戦い、シャーマンが精神集中する必要はない。この貝は、最高レベルのイードロのシャーマンのみが使用できる、他の者達の手においては魔法の力をもたない。
オグルおよびトロル
バプラク(Vaprak)の崇拝者である、オグルおよびトロルのシャーマンは、いつも何かを殺しているため、正式の捧げものをつくることを要求されない。レベルが与えられるとき、バプラクのシャーマンは、彼らと体格も強さも同格なクリエーチャー(同じ部族内にいるライバルでもよい)を見つけて殺さなければならない。この戦いは、魔法の助けを借りず、自分の肉体のみを武器にして行なわなければならない。このルールを破ったシャーマンは、ただちに全ての呪文能力および追加hpを失う。多くの場合これらのシャーマンは、自分の部族の者を殺す。
レジェンド&ロアーの96ページにもあるように、戦いの度ごとに2%の確率で、バプラクは、彼のシャーマンのうちの一人に怒りによるバーサークの能力を授ける。この神はシャーマンに対しては、それ以外は全く何も恩恵を与えない。バプラクのシャーマンは、治療/回復系の呪文の使用が禁じられているが、その逆呪文の使用は奨励されている。
オーク
オークのシャーマンの間で信仰されている神のうち、マイナーなものは、ベストオブドラゴン第3巻(Best of DRAGON V)の「オークの神」の記事でフォローされている。唯一、シャーマンとの関係について述べられていない神は、グルームシュ(Gruumsh)である、ここで扱われるシャーマンは、この神のものである。
グルームシュは、他の神を打ち負かそうと努力しているため、自分に仕えるシャーマンを高く評価する、しかしその代償は高くつく。これらのシャーマンは、戦利品の半分しか所持を許されず、残りは神への捧げものとしなければならない。さらに、これらのシャーマンは毎月グルームシュに血を捧げなければならない、この血はシャーマンのレベルごとに5レベル(HD)分に匹敵するクリエーチャー(アニマルでもよい)から採られたものでなければならない。このノルマを達成できないシャーマンは1レベルを失う。シャーマンがこのような失敗によって0レベルになってしまったら、彼は別のシャーマンの手によって、つぎの祭祀のときの捧げものに使われる。失敗によって失ったレベルは、より一層の征服行為によって取り戻すことが可能である。
グルームシュに仕えるオークのシャーマンは、個人戦での敗北はできず、そのような者は神から即座に死を賜わる。シャーマンの部族が戦闘に負けた場合、シャーマンは前述のようにレベルを失う。
レベルを獲得するために、オークのシャーマンは、彼の立場を欲する全てのオークと死を賭けた第一の戦いをしなければならない。この戦いの勝利者は、現在レベルの保持の許可、もしくは1レベルシャーマンへの訓練をする権利を得る。挑戦者たちが片付いたなら、シャーマンは自分と同じレベル(HD)のクリエーチャーと戦って殺さなければならない。これらの戦闘は、一つの長い儀式の合間に行なわれ、呪文およびマジックアイテム(魔法の武器および殆どのオークによって使われている種類のものは使用可能)の使用は禁じられる。
グルームシュのシャーマンは、治療系の呪文を他の者に対して使うことは許されない、そのような治療は彼ら自身に対してのみに制限される。逆呪文の使用は大いに奨励される。これらの厳格な戒律に対する代償として、グルームシュは、2つの恩恵を彼のシャーマンに与える。第一に、ヒットポイントのダイスを振るときに、各レベルにつき2hpが加えられる。神から与えられるこの特別な恩恵によって、グルームシュに仕えるオークのシャーマンは、戦闘時において大きな利点を受け、接近戦時の士気が高まる。第二に、グルームシュのシャーマンは、広範囲に渡る武器の訓練を受けているため、同レベルの熟練のファイターと互角に戦うことができる。彼らはそのため、獰猛な敵だという評判がたち、他の殆どのヒューマノイド種族に恐れられている。最後に、グルームシュのシャーマンのうち、その破壊的傾向が飛び抜けている者には、神からの贈り物として、魔法のスピアがそれぞれ与えられる。オークのシャーマンの手にあるとき、この武器はスピア+4(手持ち用、投げ槍ではない)として働く、この武器は、他の全てのクリエーチャーにとっては只の槍でしかない。もしエルフがこの武器に触れたなら、彼または彼女は、火傷によって、STの余地なく5-10hpのダメージを負い、その武器を取り落としてしまう。これらのスピアは、最高レベルのグルームシュのシャーマンのうちの5%が所持している。これらの武器は、低いレベルのシャーマンには与えられない。
サファギン
サファギンのシャーマンは野蛮な掟に従うことになるため、この種族におけるシャーマンの数は少ない。これらのシャーマンには全く護衛が与えられないため、戦闘時は自分の身を自分で守らねばならない。さらにそのうえ、彼らは、彼らの部族が攻撃をするときは全て、戦争指導者に続いて最前線で戦うことを求められる。サファギンのシャーマンが地位(レベル)を上げる唯一の方法は、自分のすぐ上の地位(レベル)の者を殺すことである、もちろん、自分の地位(レベル)を守るための戦いにも備えなければならない。地位(レベル)のための戦いは、歯と爪のみを使って行なわれ、武器や魔法の使用は禁じられている。
さらに、サファギンのシャーマンは毎月、シャーマンのレベルごとに3レベル(HD)分の生けにえを捧げなければならない。祭祀の開催は不規則であるので、祭祀が行なわれるときまでシャーマンは、生けにえを取っておく。しかし、生けにえとする敵の数が足りなかったシャーマンは、身代わりとして神聖なるサメの餌食となる。
サファギンの部族内のシャーマンのうちの75%は4本腕の変異種である。これらのシャーマンに対して、セコラー(Sekolah)は一対の腕で呪文を唱えつつ、もう一対の腕で戦闘を指揮する能力を与える。これはシャーマンが命中を受けない限り続けられる。シャーマンがダメージを受けると即座に、呪文を唱える能力は接近戦から抜け、集中を取り戻せるようになるまで失われる。この能力はまた、これらの特殊なシャーマンに、呪文を使いながら飛び道具を投げたり、射ったりすることもできるようにさせる。
5レベルになると、4本腕のサファギンのシャーマンは、彼らの神経をすり減らすような祭祀で鍛えられることにより、事実上、苦痛に対して耐性を得る。この祭祀とセコラーの意志により、このレベルのシャーマンは、命中を受けた後でも接近戦と呪文の使用を続けることが可能になる。この祭祀では、これ以外の能力は一切得られない。もちろん、シンボルオブペインは彼らには無効である。
2本腕のサファギンのシャーマンには特殊能力は何も与えられず、寿命も短い。彼らは主に雑用を行ない、まるで、より重要な4本腕のシャーマンのためのカノンフォーダー(大砲の餌食=下級の兵士)のような役に使われる。
トログロダイト
ラオグゼッド(Laogzed)のシャーマンは、彼らの神は概して無関心なため、比較的安楽な生活を送っている。彼らは年に一度、合計レベルがシャーマンのレベルに等しいヒューマンを火あぶりにして神に捧げる。この義務を果たすのは別に困難ではないし、もし失敗したとしても、義務が果たされるまで全てのクレリック能力を奪われるだけにすぎない。
レベルが与えられるとき、トログロダイトのシャーマンは、全ての財産を神へ捧げる、またしばしば一人か二人のヒューマンを追加で捧げることもある。より大きな捧げものをしても、褒美が与えられるわけではないが、全ての財産を捧げることを怠ったなら、ラオグゼッドはその背教者を捕らえ、苦痛に満ちた死を即座にそのシャーマンに与える(これは通常、数ヶ月以内に起きる)。
ラオグゼッドのシャーマンは、火に関する呪文(レジストファイアやフレームウォークなど)を使えない、その代わり彼らは望むなら、クラウドバーストとクリエートウォーターを学ぶことができる。
◎ウィッチドクターと神々
前にも述べたように、ウィッチドクターは蛮勇よりも魔法の力を欲するがゆえに、彼らのヒューマノイドの神々と仲たがいをさせられる。そのため、ウィッチドクターは彼らの力のために、全ての種類のデモン(demon)、デビル(devil)、デーモン(daemon)およびイビルなヒューマンやデミヒューマンの神を崇拝することを強いられる。神とウィッチドクターとの関係については、明確な例が与えられていない、そのため多くの異なる種類の崇拝対象があるにもかかわらず、すべての例に応用できるような共通ルールは僅かである。
ウィッチドクターが崇拝する存在は、いずれも極めて強力であり、これらの存在はヒューマノイドの神に嫌われているヒューマノイドのウィッチドクターを援助する。それ故に、これらの存在は、デモンのなかのプリンスもしくはロード(Demon Prince or Lord)、デビルのなかのアーチデビル(Arch Devil)、グレーターデーモン(Greater Daemon)、または神のなかでも少なくともレサーゴッドの資格をもつ者でなければならない。ニュートラルのウィッチドクターに対しては、グレーターヒエラルキモドロン(Greate Hierarch Modron) が時々プライムマテリアルプレーンの崇拝者を援助する、そしてまれなことではあるが、グッドのアライメントのウィッチドクターには、数は少ないが後援者になり得る冒険好きのソーラー(Solar)がいる。これらの存在には、プライムマテリアルプレーンにおける崇拝者が殆どいないので、ウィッチドクターに対して多くの恩恵を与える。結果として、彼らはそのプレーンでの勢力を増大させるために、より多くの力を彼らのウィッチドクターに授ける傾向になる。これらの存在は、ウィッチドクターが後援者の目的にかなった行動を積極的にとっている限りは、自由に呪文を使わせ、捧げものを要求しないこともしばしばである。これらのような存在は、恩恵や呪文について、リストにとらわれず自由にできる。多くの彼らのウィッチドクターには、その存在の影響領域およびアライメント次第ではあるが、アンデッドに対する影響力が与えられている。それに加えて、これらの存在は、功績あるウィッチドクターに対して、ヒューマノイドの神々が彼らのシャーマンへ報いるのよりも頻繁に、ささやかなマジックアイテムを授ける傾向がある。
最後に、シャーマンは決して弱音を吐くことが認められないのに対して、ウィッチドクターは彼らの神へ助けを求めることができる。もしウィッチドクターが絶体絶命の状況にあるならば、彼の祈りはクレリックのレベルごとに1%の確率で聞き入れられる。この祈りに対する答えは通常、崇拝された存在がウィッチドクターを助けるために下僕を送り出すかたちで行なわれる、しかし場合によっては、単にウィッチドクターを安全にテレポートさせるだけのときもある。後援者はこの助けに対してウィッチドクターになんらリスクを負わせることはない、またこれはウィッチドクターのレベルや能力には全くかかわりない。もし助けを求める祈りがうそであったなら、ウィッチドクターは即座に恐るべき死を賜わる、そのため殆どのウィッチドクターは、この最後の手段を使う前に、本当に絶体絶命なのかを慎重に判断する。
◎最後に
ヒューマノイドスペルキャスターは、どんなパーティーと向かい合っても刺激的な相手である、なぜなら彼らは、予測できない要素を追加し、おなじみの敵を新鮮なものにするからである。中間レベルのパーティーでも、見慣れぬ呪文やマジックアイテムと共に現れるシャーマンやウィッチドクターによって苦境に立たせられるし、低レベルのパーティーにとっても、これらのNPC達との出会いは、ランダムなハックアンドスラッシュ(切り刻み)エンカウンターよりも遥かにすばらしい挑戦ができるだろう。アンアースドアルカナから追加された幾つかの呪文、およびDMGで与えられたリスト以外から採られた呪文は、DMGを暗記しているプレイヤーさえ戸惑うことだろう、そしてDMがヒューマノイドスペルキャスターを使うことにしたのなら、キャンペーンにおいて新たなひねりを加えることだろう。DMは、利口なPC達に解明させるために、スペルキャスターを綿密な計画をつくって配置することができる、そして冒険全体を有名なヒューマノイドスペルキャスターの周辺に集中させることもできる。ヒューマノイドスペルキャスターの動機と目的についての理解が大いにあるのなら、DMはこの種の興味深いNPC達の使い方や覚え方について、良いアイデアをたくさん出せることだろう。
[DMが、シャーマンとウィッチドクターについてさらに深く追究するための資料となる他の記事としては、ベストオブドラゴン第3巻(Best of DRAGON Magazine Anthology, Vol.V)の「ハーフオークの視点(The half-orc point of view)」および「オークの神(The gods of orcs)」、ベストオブドラゴン第5巻(Best of DRAGON Magazine Anthology, Vol.X)の「ヒューマノイド(The humanoids)」、ドラゴン誌第78号(DRAGON issue #78)の「海の要塞(The Citadel by the sea)」がある。]
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